甘い恋飯は残業後に


「……腹減ってないか?」

「……は?」

「……いや。もう九時も過ぎたし、腹減ってるんじゃないかと思って」

急に話を変えられたことで、確信する。これは相当まずいことをしてしまったに違いない。


「とは言っても、パスタぐらいしか作れないしなぁ。朝からパスタっていうのも……」

「あの、気を遣わなくていいですから。わたしが酔って何をしたのか、はっきり言って下さい」

難波さんの家に泊まったこと自体、既に“やらかしている”のだから、今更ジタバタしてもしょうがない。

上目遣いで難波さんを窺うと、渋い表情をしている。

もう腹は括った。わたしは小さく息を吐いてから、顔を上げた。


「……そばにいてほしいと」

「……えっ?」

「帰りたくない、そばにいてほしいって潤んだ瞳を向けられたら、ここに連れてくるしかないだろ」

思いがけない言葉に、ガツンと頭を殴られた。


「……他の男なら間違いなく襲ってただろうな。俺の理性に感謝しろよ」

気まずくなったのか、難波さんはキッチンの方へと行ってしまった。


爪先から頭のてっぺんまで一気に熱が走る。

嘘でしょ……?
酔っていたとはいえ、難波さんにそんなことを言ったなんて……!

いよいよ居た堪れず、それからわたしはキッチンにいた難波さんにお詫びとお礼を言って、逃げるように難波さんの家を後にした。



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