甘い恋飯は残業後に


『やることヤッて目的を達成したら、中身がないことに気づいて離れていくだろうよ』

兄貴の言葉が頭の中心に腰を据えている限り、たとえ想いが通じたとしても、わたしはきっと失うことを考えてしまうだろう。

もちろん、難波さんは体目的で女性と付き合うような人じゃないと思っている。それよりも、ありのままのわたしを知られたその先が怖いのだ。


――普通に恋愛できる人が羨ましい。

人からは「万椰は美人で羨ましい」と言われることもあるけど、少なくともわたしは人から羨ましがられるような人生は送っていない。


腕時計に視線を移す。わたしはため息を吐いて立ち上がった。

早く出社すれば、少なくとも一斉に視線を向けられることはない。難波さんとも、何とか普通にやり過ごせる。


飲み終わったコーヒーのカップをコーヒーショップの紙袋にしまい、わたしは会社までの道を重い足どりで歩く。

会社のビルに入り、エレベーターに乗ろうとボタンを押したところで、わたしは誰かに後ろから肩を叩かれた。


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