甘い恋飯は残業後に
“美人”というその言葉に、わたしはいい加減辟易している。
わたしにとってはもはや、それが差別用語と思える程だ。
そんなことを他の人に言おうものなら「贅沢だ」「自慢だ」と言われてしまう。昔、うっかり口を滑らせたら、あの子は美人なのを鼻に掛けている、とクラス中に言いふらされたことがあった。
自分の容姿を自慢する気も、利用する気も毛頭ない。
気心知れた友人には「立派に男を騙せるのに、利用しないのは勿体ない」と無責任なことを言われたことがある。わたしに、結婚詐欺師にでもなれというんだろうか。
騙すつもりはないけど、どうやら“人を勘違いさせる素質”はあるらしい。
「なにかしたつもりは、なかったんだけどな……」
わたしは、誰にも聞こえない声で呟き、ふやけたため息を吐き出した。