薬指の約束は社内秘で
第2章 スイートルームの恋人
葛城さんに助けられたあの日から2日が経った。

閉ざされた扉の前で、「どうしたものか?」と途方にくれること、4分35秒。会社の昼休みは13時まで。

左手首の腕時計に視線を落とすと、私に残された時間は15分をきっていた。

さっきから「開け開け」と願っている扉は、ピクリとも動かない。そればかりか廊下を通り過ぎる人すらいない。

「本当に同じ会社なのっ、ここは」

出入りが激しい販売部のフロアとは違い、静まり返った廊下に空しい愚痴が響いた。
あの日はホテルのラウンジで遅い朝食を二人で取ってから、彼は自分の車で私を駅まで送ってくれた。

『どんな理由があるにせよ。ホテルに連れ込んだのは、俺が勝手にしたことだし』

すっかり見慣れた意地悪な瞳でそう皮肉交じりに言われたけれど、宿泊代まで出して貰うわけにはいかない。

車を降りる前に鞄から財布を取り出すと、彼は顔を斜めに傾けて艶っぽい笑みを浮かべた。

『ホテル代を女に払わすとか、ないから』

きわどいセリフにドキッとする。
それを悟られないように焦ったせいか直球でとんでもない質問をしてしまった。

『いつもあんなホテルを使ってるんですか?』

ちょっと、なに聞いちゃってるの、私!? (思いっきりセクハラじゃないですか!?)

自分で言ったくせに、頬が熱くなる。
視線をおろおろと泳がせた私に、葛城さんはなんてこともないように、さらりと言ってのけた。

『あぁ。気に入ったらしいからな』
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