身代わり王子にご用心




「た、高宮さんは……付き合っていた方がいらしたんですか?」


駄目だ、訊いちゃ駄目だ。そう思うのに、勝手に口が動いて言葉を紡ぐ。


残酷な現実が自分を打ちのめすと解っているのに……どうして、私は。


「ああ、雅幸ね。高校の頃にオーストリアの首都にある学校から、交換留学生で来たマリアと一時だけど恋人だったんだよ」

「あ、マリア……あのマリアか! たしか、世が世なら伯爵令嬢だったっていう貴族の家系の出身だったんだよな。それだけど日本語ペラペラで、おれらにも気さくに話してくれて。すっげえ美人だけどお高く止まってないし、人気あったんだよな」


まるで、金づちで頭を殴られたようなショックを受けた。


……高宮さんの部屋にあったドイツ語の雑誌……あれには確かに……マリアと読める名前がタイトルにあった。


「ま、マリアさんって……金髪碧眼の……」

「ああ、その通り。ゲルマン系の典型的な美人だったな。だから、高宮が射止めた時はすげえ騒ぎになったもんだ。
そうそう……」


男性が何気なく出したそのひと言は、私にとって残酷なものだった。


「彼女は料理が得意でね。よくごちそうになったけど、特にミモザサラダが絶品だったな~」

「……そう……ですか」


耐えきれずに、カクテルを一気に煽る。涙がこぼれそうだった。


(何を……落ち込んでるの。高宮さんが誰を好きだろうと……私には関係ないじゃない)


そう思おうとするのに、胸が張り裂けそうなほどに痛くて苦しい。


……どうして、私は。


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