身代わり王子にご用心

溶け始めた雪





結局、大谷さんはその場で認めずに終始ツンとそっぽを向いたまま。そんなふてくされた態度は、まるっきり子どもだ。


「あ、そうそう。昨日訊かれたことを思い出したわ。息子の元がようく憶えてたの」


朝礼が終わって会議室から出る前に、坂上さんが思いついたように手を叩いた。


私が訊いたのは、この学区内にガラス張りのお家が無かったか、ということだった。


私の記憶の中では、冬なのにガラス越しに色とりどりの花を見た気がして。


その中にあった淡い色の宝石。どんなに手を伸ばしても触れなかったそれは、私の中では不可侵の綺麗な場所に収まっていた。


「ガラス張りというか、サンルームを持つお屋敷が一件あったはずよ。名前までは思い出せないけど、お父様が地域の名士だったはず。
だけど、家庭に問題があって親が離婚し家族がバラバラになった上、お屋敷は手抜き工事が発覚して建て替え予定で取り壊されたけど、結局あのまま更地になってるでしょう。
風の噂で聞いたけど、どうやら父親が横領罪か何かで捕まって、どん底になったみたいね」


さすがに情報通である坂上さん。建物だけでなくて、さりげなくその後の情報まで提供してくれた。


「ありがとうございます。そうだったんですか……」


サンルームのあったお屋敷。今はもうないならば、確かめることすら出来ない……。と少しがっかりしたけど。やっぱりあれは記憶違いじゃなかったと確信を得た。


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