身代わり王子にご用心

最後の日









28日、今日は2月の最終日曜日。スーパーの特設会場では、朝から会場作りを手伝う。


営業開始30分前になんとか出来上がって安堵の息を着いた私に、ペットボトルが差し出される。


「お疲れさま。喉が渇いたでしょう、飲んで飲んで」


髪をポニーテールに結い上げ、赤のポロシャツと紺色のジーパンスタイルの曽我部さんが私に勧めてくれた。


以前にも飲んだことがあるジャスミンティー。あの上映会で知り合った彼女たちとこうして再会するとは思わなかった。


「ありがとう……」


お礼を言って受け取り、喉を潤す。思ったよりも喉が渇いていて、ペットボトルの半分ほどイッキ飲みした。


「今日はありがとうね、かっちゃん。私たちの作品を発表する場を与えてくれて」

「いや、礼なら雅幸に言ってくれ。僕はそんなに大したことはしてないし……それに。やっぱり、自分が関わった作品がより多くの人に観て欲しい……って気持ちは痛いほど解る」


桂木さんはどこか遠いものを見るような眼差しで、スクリーンを眺めた。


以前にも、見たことがある。


“叶わない夢もある”と話した時と同じ表情だ。


あの時は何のことかわからなかったけれど……。


もしかしたら、桂木さんはこの道に進みたかったんじゃないか? そんな感じがした。


「そんなことを言うなよ。おまえの力がなきゃ、今日の上映会は絶対に実現しなかったんだからな」


曽我部さんと同じ赤いポロシャツを着た細身の男性――春日さんがやって来て、桂木さんにそう言った。


だが、と彼は話を継ぎ足した。


「なぜ、おまえはこちら側で参加しないんだ?」


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