愛してもいいですか
「架代さん……」
そっと伸ばされる、手。その左手は私の頬を撫でるように触れた。長い指先が、少しくすぐったい。
じっと見つめる瞳は、穏やかなものから真剣なものへと変わり、熱い色で私の顔を映す。
“秘書”ではなく、“男”の眼。あぁ、まずい。吸い込まれそう。
けれどその瞬間、日向は私の頬から手を離し、いつもの笑顔に表情を戻す。
「これからも何でも頼ってくださいね。俺は、あなたの秘書なんですから」
私の『秘書』、一言がまたずしりと心に沈む。
彼の言葉が嬉しかった、はずなのに。その一言でしっかりと線を引かれた気がした。
秘書、……そう、秘書。
「そろそろ行きましょうか、あんまり長居すると体冷えちゃいますし」
「……えぇ、そうね」
車へ戻り出す日向に頷くと、キラキラと光る景色に背を向けた。
あの日、パーティの夜も感じたこの気持ち。沈むような、刺さるような、この気持ちの正体はわからない。
ただ、ひとつ分かるのは胸が痛んでいるということ。それ、だけ。