愛してもいいですか

「ま、そうしてたらいつの間にか彼女を作る暇もなくここまで来ていたというわけです」



話し終え見ると、架代さんは手元の本をぎゅっと抱き締め俯く。

あれ？なんか、様子が……。



「……その人と仕事は、出来たわけ？」

「え？あぁ、はい。おかげさまで。もう思い残すことないです」



表情を伺うように顔を覗き込むと、その顔はどこか悲しそうな複雑な表情を浮かべる。



「架代さん……？」



そして次の瞬間、彼女は俺の胸の中に顔をうずめるように、抱きついた。



「ど……どうしたんですか？」

「……うるさい。黙ってなさい」



架代さんらしくない。嫌なものを見たくないとでも言うかのように、顔を俺へと押し当てる。

初めて彼女から触れられる、そのことに嬉しくもあり戸惑いもあり、どうしていいかわからない。



この小さな肩を、抱き締めたい本能と、抱き締めていいのかという不安に揺れる心。

静かな資料室の中、腕は彼女を包み込めないまま。