愛してもいいですか



『どうしたんだ?架代、いきなり』

『昨日も親戚のおばさんが言ってたから。架代ちゃんが男の子だったらお父さんも嬉しかったのにね、って』

『……架代、』



だけど、父は頷いたりしなかった。



『そんなことないさ。女でも男でも関係ない、架代はお父さんの自慢の子供だ』



そう笑って、私の頭を撫でてくれた。わしわしと頭に触れるその大きな手が少し痛いくらい。だけど、とても嬉しかったことを今でも覚えている。



愛してくれた父だから、その気持ちに答えられるように頑張ろうと決めた。

父の築いた会社を立派にするために、その会社に恥じないよう自分自身も立派になろう。そう、決めたんだ。



そこからはただひたすらに、目指すところに突き進む日々。

少しでも早く社会を知ろうと、高校生の頃は毎日のようにスーパーでバイト。大学生になってからは経営学や建築デザインの勉強の傍ら、この会社で雑用のバイトをして、卒業後三年間社員として営業部で働いた。

『宝田架代子』と嘘の名前で、親会社の社長の娘だということを隠して、まずは社員としての気持ちを知りたいと思ったから。



けれどそこであったのは……前述の通りの先輩社員からのいびり。それに耐えて社長になっても、七光りだと笑う人は多いし、偉そうだと不満をもらす人もいる。

上手くいくことばかりじゃないと分かってはいたけれど、心挫けそうになることもある。



『自らの意思で歩み寄っている』



だけど、そう言って分かってくれようとする存在が、立ち上がる手を差し伸べてくれるんだ。

それは今日も、変わらずに。






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