俺が嫌いな理由
一日目
皐月さんの家に向かうまでの車のなか…俺は、ずっとうつむいて黙っていた。

「お前、静かなのな。やるときはあんなにベラベラ猿みたいにわめいてたくせに。」

わめいてたんじゃなくて、自分の緊張を解くために、声を出し続けてたかったんです!!
…と言いたかったけど、話し方が冷たい声だったから、 うなずくだけにした。

そんな俺に皐月さんは手を伸ばして頭をグシャグシャと撫でた。

10分ほど走っただろうか…。アパートの前に車は止まった。

「ついたぞ…。降りて荷物を運べ。」
「…はい。」

カードキーで開いた重そうなドアの向こうには、物の少ない整頓された部屋が広がっていた。

「荷物は…そうだな、ここに置け。」
思ったより広い部屋で、俺はもっとドキドキしていた。

皐月さんは、俺の震えっぱなしの手をとった。
「何で、こんなに震えてんだ?」
「へ?あ、あの。」

皐月さんは俺の手を口元に近づけた…と思ったら、薬指の根元を噛んだ。
「っ!!」
「少しは落ち着いたか?」

俺を見下ろす目は…何かを見透かされそうで、思わず顔をそらしてしまった…。
「まだ落ち着かないのか…。だったら…!!」

皐月さんは俺の腰に片手を回すと、もう片方の手で、首筋をなぞった。
ゾクッ
あれ…何これ…。初めての感覚に身動ぐと、また皐月さんはフッと笑みを浮かべた。

「やっと…いつもの調子に戻ったな。」
「なっ!」
「安心しろ。今日は、手を出さない。先にシャワーを浴びてこい。」

何なんだよ…。俺の緊張してたの…気がつかれてたのかな…。
しぶしぶ浴室に向かう俺には、聞こえていなかった。
「反則だろ…今の反応。」
皐月さんがそう呟いたことは。
< 6 / 21 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop