psi 力ある者 愛の行方 



考えてみれば、以前から陸の感情は一度として私に流れ込んできたことはなかった。
どうしてなのかわからないけれど、世の中にはそういう相手もいるのかもしれない、と深くは考えなかった。

寧ろ、陸の気持ちが手に取るようにわかってしまうことの方が怖かった。
口から囁かれる愛の言葉と、心に持つ想いがもしも違っていたら。
そう考えるだけで、私は不安になってしまう。
どれほど陸が私のことを愛しているのか、知りたくなる。
だけど、自分が想っているほどじゃなかった時、冷静でいられるか分らない。
私はそうやって、陸に対し普通の恋心を抱いていたんだ。

外に出れば、すれ違う人たちから感じるそれぞれの色。
脳や胸を押し付けられるような圧迫感は、あまりいい気分とはいえない。

今度は、私にいったい何が起きているのだろう。
黒谷のような憎念をぶつけられたわけでもないのに、どうして力が放出していくんだろう。

すれ違う他人。
流れ込んでくる色と圧。

視界がその人の抱える景色を映し出し、私の脳に映像を送り込んでくる。
路上で立ち止まり、受け取ってしまった景色に呑み込まれ。
沢山の行きかう人のそれが、次々と目まぐるしく私の前に映し出されていく。

そんなとき、常に私と共に居る陸は、その変化に気付くと現実へと引き戻してくれる。

「未知? 大丈夫?」

そうやって必ず声を掛け、虚ろな瞳を覗き込む。

陸の呼びかけに、私の視界はゆっくりと、今目の前にある現実を映し出し、脳や胸を締め付ける圧も軽くなっていった。

けれど、不思議なこの兆候は、序章にしか過ぎなかった。
別の形を伴って、陸へも手を伸ばしていたんだ――――。



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