「生まれたてのお前は、必死に泣いていた。私の指をその小さな手で握り、必死に声を上げていた。その泣き声が助けてと言ってる気がしたんだよ……」
「男の子は……、男の子だって……」

「確かに、あの子も声は上げていたさ。けれど、あの子から伝わってきたのは、お前を救って欲しいという感情だった……。生まれたばかりの子にそんなことがあるのか……今思えば、お祖母ちゃんの思い過ごしだったのかもしれない。けれど、あの時は、自らを犠牲にしてでもお前を救うべきだ、とその子が訴えかけてきたように思えたんだよ……」

それが、力ある者の本能なのだろうか。
言葉すら、目すら開かない赤子が、本能で祖母にその念を送り込んできたという事なのだろうか……。

祖母が下した決断は、きっと想像以上につらい、苦渋の決断だった事だろう。
老いた祖母の、苦しくつらい過去の選択を責められるはずもない。

「おばあちゃんは、未知から母親を遠ざけ、姉弟から引き離した。語り継がれてきた事を実行する以外ないのだ、と自分に言い聞かせた。けれど、そこまでしておきながら、最後の最後に情けを出してしまったんだよ。お前の母親が流した涙と悲痛な叫び声。離ればなれになる事を悲しむように泣き叫ぶお前たち姉弟に、情けを……」

なんてことをしてしまったのか、と祖母は項垂れる。

「亡き者にするのは、雑作もない事だった。少し力を使えば、誰に気づかれる事も無く、あの子は元々この世に存在しない事になるはずだった。けれど、私はどうしても最後の剣を振り下ろす事ができなかったんだよ……。結局、ここからずっと離れた街へ移動し、生まれたばかりのあの子を、施設の前に置き去りにしてきてしまった……。そこで命が尽きてくれればと、自らの手を汚さずに放り出してしまった。施設へ置き去りにすれば、助かる可能性も出てくる……。それを頭の隅で解っていながら……」

「施設……」



 ―――― 俺、施設から貰われてきたんだ……。



ベッドの中で話してくれた陸の言葉がよみがえる。
祖母が言いたいことの意味が少しずつ見えてくる。

けど、信じられない……。
信じたくない。

心臓がドクンドクンと大きな音を立て始める。
ザワザワと背筋には悪寒が走る。
逸らしたい現実、受け入れたくない真実を脳が拒絶する。

愛しあい、肌の温もりを感じあった相手。
その相手が――――。