私は彼に愛されているらしい
これも今日何回目かだな。

「…もう若いから可愛がられるって年でもなくなってきたね。」

27歳、結婚適齢期。後輩も増えてきた社会人5年め。
この情報だけでももう若いとは言われないし言えないことは分かってる。

それがドドンと大きな音を立てて目の前に突き付けられた感じだ。

「私…痛いのかー…。」

それはかなりショックだ。

クラクションを鳴らさないように慎重に頭をステアリングにくっつけて顔を隠す。目の前に映るのはスピードメーター、今は何を見ても塞ぎこみたくなりそう。

27歳の自分は27歳標準のノウハウを身に付けていたいと思っていた。結婚を焦っていない訳じゃないが、カッコいい30歳になる為にはそれまでの経験も大事だと考えてる。

周りが見えて品があって、マナーやエチケットも完璧で、そんな大人の女性な30歳になりたかったのだ。

でもこれじゃあ無駄に年を重ねているだけじゃん。

「人生経験値が低すぎる…。」

憧れる年上の女優さんみたいにスマートになりたい、あんなカッコいい年の重ね方をしたいのに憧れは憧れでしかないのかな。

「んなこっちゃないだろ。」

完全に落ち込んだ私の耳に入ってきたのは、うっかり存在も忘れそうになっていた竹内くんの声だった。

「仕事は知らないけど、普段からの補佐や振る舞いは気が利いてるって評判だし。仕事も頼みやすいし、何より気を遣わせない態度は上司が褒めてたのを聞いたことがある。」

突然の言葉に驚いて私は目を見開いた。

特別ではなく世間話でもするような普通の調子で話す言葉は嘘ではないのだと感じさせてくれる。

「…本当?」

「嘘言ってどうすんだよ。」

呆れ交じりの言葉が返ってきて可笑しい。

その言葉に促されて私は丸くなっていた背筋を伸ばすように体を起こし涙を堪えるように上を向いた。口元にも力を入れる、短い息を吐いてまたしっかりと口を閉じた。

良かった、嘘でも嬉しい。

「ありがとう。」

それが嘘でも本当になるように頑張ろうと素直に思えた。ありがたいな。

竹内くんは苦笑いで息を吐くと遠い方の左手を伸ばしてきて私の頭に触れた。

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