私は彼に愛されているらしい
「あれ本気だぞ。」

「ええ!?」

「あんたの曖昧な態度があのおっさんに言わせたんだからな。セクハラとか言うんじゃねえぞ。」

「ええー!?」

エレベーター近くの渡り廊下に声が響いて慌てて両手で口を押えた。幸いにも今は定時後の残業時間、エレベーターで帰宅しようとする課長とのやりとりを発見されて今ここに至っているのだ。

とはいえ残業時間だから尚更人気が少なく声が響くのだけれども。

「女が誘うセクハラってやつもあるんだよ。胆に銘じといた方がいいんじゃない?」

「そう…なの?」

目から鱗というか新発見というか、自分のうぬぼれにがっくりしたというか、とにかくどうしようもない脱力感に襲われ私は肩を落とした。

だって女子同士の集まりではまずセクハラは男が原因という大前提から話が始まる。こちらが軽くかわした会話の流れから出たセクハラも全て男性陣に非があるとしてブーイングを出し合うのだ。

「話戻るけど。大体あんた、いくつな訳?新入社員じゃあるまいし相手がどういう気持ちで話しているか位分かる年齢だろうが。何年社会人やってんの。」

「はあっ!?」

「あの程度のセクハラ?っていうの?それ位軽くかわせられないで…ちょっとスキル足りないんじゃない?男性経験少ないの?」

「それって完全にセクハラじゃない!?」

あまりの言われ様に流石に腹が立った私は渾身の睨みを竹内くんに突きつけてやった。しかし彼は感心したように声を漏らして何回か頷くとこう言ったのだ。

「正解。流石にこれは分かるか。」

完全に馬鹿にされてる。

確かに隙があったのかもしれないけど自意識過剰になるのも痛いところだし、自分なりに探りながら言葉を選んで対応してきたつもりだったのに。

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