私は彼に愛されているらしい
「…何ですか。」

今の反応はどういう意味を含んでいるのかと聞いてくる態度はまさに威圧的、というかまた今日も竹内くんは怒ってるよ。

怒ってばかりの人から惚れた弱みとか言われてもイマイチよく分からない。

「竹内くんって何でいつも怒ってるの?」

「そりゃ…思った以上に伝わらない相手へ四苦八苦した挙句、空振りかと思いきやデッドボールにされた俺の気持ちを考えればすぐに分かるでしょ?」

「ちょ…ゴメン、早いし例えもピンとこなくて理解できない。」

「鈍感はここまでいくと有罪だって話です。」

盛大なため息を吐いた竹内くんは額に手をあてて項垂れた。あ、間違いなく疲れてる。

「…先人たちの哀愁漂う背中が目に浮かぶ…。」

「え?誰か亡くなったの?」

「あんたに挑んで討死していった人たちですよ。」

「あ、そう…なの。」

それ以上に口を開こうものなら何を言われるか分かったものじゃないので私は目を逸らして静かに口を閉じた。

途中で話が変に盛り上がったせいか駅に向かう予定の進路は少し寄り道になり、休憩スペースもある駅に隣接された広いバルコニーに足を進めていた。

さすがにこんな遅くに人影は少ない。

ん?少ない?

そう言えば今は何時なんだろう。とはいえ携帯を取り出す訳にもいかず、私は時計を探してきょろきょろと辺りを見回した。

「…12時回ってますね。」

竹内くんの声に反応して彼の方に向き直す。左手にある重量感の有りそうな立派な時計を眺めて竹内くんは興味無さそうに呟いた。

「終電乗り損ねました。」

「あ、そう…。」

とりあえず事実を受け止めて私は黙った。なんとなくそんな気はしていたから大して慌てることはない。目の前にいる竹内くんも私がどういう判断をするのか待っているようだった。

深夜料金かかるけど、まあいいか。

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