愛しい君~イジワル御曹司は派遣秘書を貪りたい~
「死んだら楽になれるかな」
 
 私がいなくても誰も困らない。

 いなくなった事すら誰も気づかないだろう。

 もう寂しいのも、悲しいのも、辛いのもイヤ。

 楽になりたい。

 悪魔の誘惑に負けて、赤信号にもかかわらず横断歩道を渡ろうとしたその刹那、突然腕を掴まれて引き戻された。

「信号赤だろ!どこ見てるんだ?」

 誉が凄い剣幕で怒っていた。

 ちょうど塾の帰りで偶然私を見つけたらしい。

「離して!私、もう消えてなくなりたいの」
 泣きわめきながら誉に懇願する。

「誉は邪魔しないで!」

 何度も何度も誉の胸を叩いた。

「聡がいなくなって寂しいのはわかるけど、そんな悲しい事言うな。お前まだ9歳なんだから」

 誉は冷静に私と視線を合わせ、なんとかなだめようとする。
< 80 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop