誘惑~初めての男は彼氏の父~

過去

***


 「昨日は、ほんとごめん」


 翌日。


 大学のキャンパス内、噴水の脇にて。


 私たちはお弁当を食べていた。


 「謝る必要なんてないわ。私も佑典のお父さんにご挨拶できて良かったし」


 心にもない言葉を、私は口にした。


 本当は佑典のお父さんが初体験の相手と知って、この上なく混乱しているのに・・・。


 「ま、まさか佑典のお父さんが、写真家の水無月和仁さんだったなんて。びっくり。結構水無月さんの写真好きだったんだよね、私」


 笑顔で本心を偽った私。


 「ごめん。そのことも隠していた」


 「隠すことないんじゃない? 立派なお父さんなんだから」


 「・・・父さんは俺が物心付いた頃には、すでに著名な写真家として活躍していた。だから近所でも有名になっていて、小中学校では冷やかされたりして、子供心には耐えがたかったんだ」


 「有名人なお父さんを持つと、人知れぬ苦労があるのね」


 「だから高校は、無理して遠距離通学で、学区外の札幌の高校にしたんだ。知り合いが誰も受験しない高校を、意図的に選んで。父親の話題は完全封印して」
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