囚われる心と体



「ったく、冗談じゃないわ!」




「まぁまぁ、飲みなさい」




「忠実に仕事をしてるだけなのに、なんで私が悪者なのよ!」




「まー、あの王子にかかったらこっちの負けよ」




「あんな胡散臭い男のどこが王子よ。みんな見る目無さすぎ」




残ったチューハイを飲み干しグラスをドンとテーブルに置く。




一緒に飲んでる同期の紗耶香(さやか)の男遍歴は百戦錬磨で、沢井卓人の猫被りキャラを簡単に見抜いた凄い女だ。だからいつも彼女に愚痴を吐き出す。




皆はあいつの黒い部分を知らないからキャーキャー騒いでいられるのだ。あの獲物を捕獲するような鋭い目。あの冷たい瞳に射抜かれると蛇に睨まれた蛙状態になる。




でもどうして私だけにあんな表情を見せるかは謎。紗耶香に言わせると由愛(ゆめ)はお気に入りなんでしょとからかわれる。




正直お気に入りなんて冗談じゃない。どうせ狙いをつけるなら腹黒王子を崇拝している他の女子社員にして欲しい。獲って食われるなんてまっぴらごめんだ。




私は、私の事を一番に愛してくれる素敵な王子さまを待ち続けているのだから。紗耶香にそんな男はいないと言われ続けてるけど。あーあ早く現れてくれないとオバサンになっちゃうよ。




そしてまたこの夜も必要以上に飲みすぎてしまったのは言うまでもない。


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