始業後すぐの社食には、社員の姿は全くない。


厨房では、昼食のピークに向けて慌ただしく仕込み作業が行われているんだろう。
忙しない雑多な音が聞こえて来る中、堀田さんは私を椅子に座らせると、自分はその隣でテーブルに軽く腰を掛けた。


私の啜り泣く声だけが響く静かな空間。
聞いてやる、と言って私をここに連れて来た堀田さんは、きっと私が口を開くまでそのまま黙っている。
そうわかったから、私はグッと涙を手の甲で拭った。
そして一度大きく息を吐いてから、低い天井を見上げた。


「……すみません。外出前なのに、こんな……」

「別にいいけど」


直ぐに返って来るそんな返事に、私は思わず苦笑いした。
そして、強張りながらも笑える自分に、少しだけ救いを持てた気分になった。


フッと、日射しが挿し込む窓際の席に目を向けた。
これから真南に昇って行く太陽は、容赦なく地球に降り注いでいる。
今日も暑くなりそうだな、と思いながら俯いた。


「……堀田さんって、クールビズでも割とちゃんとスーツ着てますよね。
あの炎天下を歩くの、大変じゃないですか?」


挿し込む太陽の日射しに気を取られたまま、どうでもいい話で気分を変えようと思った。
堀田さんは一瞬、は?と怪訝そうに眉を寄せながらも、小さく何度か頷いた。


「そりゃ大変だよ。
でも、俺の担当先の大学や病院のお偉いさんは、未だに頭の硬い人種ばっかりでね。
世間の波に流されてノータイなんかで行ったら、まず不機嫌な顔をされるからな」

「……大変ですよね、こんな真夏に外で仕事、なんて」


そうやって、私の希望通りに、話は一般的な世間話に移っていってくれる。

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