つま先立ち不要性理論
煙草とカシスオレンジ
 


好きな男のタイプは、と聞かれたら。
そりゃあ顔がいいに越したことはないし、背は高くてスレンダーな方がいいし、きちんとした教養があって運動もそれなりにできて高収入でおまけに優しくて浮気もせずにいつだってわたしを第一優先してくれる人……なーんて。

そんな完璧超人がいるならここに連れてこい。今すぐ。



「いるじゃん、ここに」
「……あんたとこのやり取り100回くらいしてる気がする」

飲みの席で、女はとりあえずカシスオレンジかカルーアミルクを頼んでおけばモテるらしい。でも腐れ縁の敦史の前ではそういう猫かぶりは不要だから、わたしは遠慮なく冷えたジョッキで生を呷る。

そして、100回って言わないでしょ、と笑いながら咥えた煙草に火をつけるこの男が、本気で女を落とそうとするときだけ都合よく禁煙者になること。わたしはよーく知っている。


つまり。

わたしたちはお互いに、言わずとも知れた恋愛対象外。



 
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