私たちは、藍前が最初に「提案」した海を見に行った。
藍前(こいつ)の車で、藍前(やつ)の運転で。

ずーっとかけてた音楽をお互い無言で聴きながら、時にはしゃべる。
車内に広がる空間は、とても心地よかった。

1時間もしないうちに、海に着いた私たちは、浜辺を歩いた。
二人とも水着持ってきてなかったし、泳ごうって気分じゃなかったし。

私たちが歩くたびに視線を感じる。
それも女ばっか。
みんな藍前をチラ見している。
目の保養ってわけか。納得。

こいつのビキニな水泳パンツ姿をここで晒そうものなら、周辺にいる女子どもは、鼻血出して悶え喜ぶに違いない。

そんなのあかんっ!
こいつの裸見て悶え喜ぶのは、私一人で十分だ!!

と私があれこれ脳内で考えてる中、チラ見されてる藍前は、のんきな声で私に話しかけてくる。
こいつ・・・周囲の視線に気づいてない?

「どしたの?ちとせさん」
「あ・・・うーんと、あんたさ、意外と目立つ容姿してるって気づいてる?」
「僕?そうかなあ。たぶんイオと間違ってるんじゃない?」

イオというのは、藍前の双子の兄ちゃん・伊織のことだ。
伊織は人気ロックバンド「RAIZ(ライズ)」のギタリストをしている。
ちなみにライズのボーカルは、私の弟の歩夢(あゆむ)。
ということもあって、私は伊織のことを、こいつのことより前から知っている。

「でもあんたたち、双子つっても似てないじゃん」
「二卵性だからね」
「それに背の高さも違うし」
「イオは背高いね」
「ていうかさ、あんたも十分高いよ!180は超えてるでしょ」
「うん。182だったかな。父さんが背高いから。遺伝じゃない?」
「そんだけ育てば立派だよ」と私がしみじみ口調で言うと、藍前はクスクス笑った。

「そうだね。僕、小さい頃体弱かったから。それ思うとホントよく育ったなーと思う」
「疾患でもあったの?」
「うーん。僕は覚えてないんだけど、熱出したり倒れたりして、よく病院へ行ってたんだって。それもあって僕は将来医者になりたいと思ったんだ」
「へえ」
「対して、僕とは逆に、イオは赤ちゃんの頃から超がつくほどの健康優良児でさ。足骨折するまで病院の世話になったことがないんじゃないかな」
「あぁそれ想像つくわ」
「でも僕、7歳くらいから病院へ行く頻度も減って、普通に生活してた。病気で学校を休むこともなくなったし、僕をいじめる奴らに立ち向かったり・・・」
「あんた、いじめられっ子だったの」
「うん。僕、2歳の頃から視力悪くて眼鏡かけててさ。子どもにしては結構分厚いレンズだったこともあって、バカにされてた。それでイオは頭に来て喧嘩して、僕もそれに加わって。でも結局僕はすぐ倒されてたなぁ。体は健康になったとはいえ、体格は貧弱だったし、非力だったし。ギャーギャー泣いてる僕を、いつもイオが慰めて」
「ふぅん。今の藍前からは想像つかないね」

このがたいは貧弱とは真逆でしょ。
それに力だって結構強いと思う。
まさに男!って感じなんだけど、マッチョってほど、ものすごい筋肉ついてるわけじゃなくて、まさに私好み・・・。

いけない、いけない!
よだれ出てないよね?
ここは人目があるから、今、ここで、こいつにがっつくわけにはいかない。

あぁ、ゴールデンゾーンに入ると、盛度が激しく高まるの!?


ボーっと突っ立ってる私の手を、アテンションプリーズするように、藍前が引っ張る。

「そろそろ歩こう」
「あ・・・うん」と言いながら、私は繋がれた手を見ていた。

「なに」
「・・・暑い」
「いいじゃん」
「なんか汗ばんできた」
「緊張してる?」
「してないっ!」
「たまにはちとせさんと手つないで歩きたい」
「うはーっ!あんた、女みたいな甘え方するんだね」
「初めてだよ」
「・・・なにが」
「彼女に対してこんな風に甘えるの、僕初めてです」

と宣言した割には、こいつ、淡々としてるっつーか、緊張してないっつーか・・・。

「あ、あんたさ、年上の女とつき合ったことないの?」
「ないです。ちとせさんは?年下の男とつき合ったことないんですか?」と藍前に聞かれて気がついた。

「ない」

年下の彼は、藍前が初めてだった。
藍前は2・3秒私を見ると・・・ニッコリ笑った。

「くは!なんでそこでニッコリなわけ?」
「べつに。ねえ、ちとせさん」
「なに」
「ちとせさんは・・・僕が年下だってこと、気にしてますか」

私は立ち止まると、隣の藍前を仰ぎ見た。

あぁこいつ、背高いからもう・・・押し倒そうか!
って考えちゃうじゃないの!

「なんで気にするの?大体私と藍前って2つしか違わないじゃない。もうすぐ3つになるか。とにかく気にしてないし、したことない。それより私が重要視してるのは、あんたの精子であって、あんたほど健全な性欲を持ってれば・・・」
「ああもういいからっ!」

藍前は、私がしゃべってる途中で遮るようにそう言うと、私をガバッと抱きしめた。

「ぎゃ!急になにす・・・」

藍前から始めたキスを、しばし堪能した。
やっぱりこいつの性欲は・・・健全だ。

「ねぇ、あんたは・・・私が年上だってこと、気にしてんの?」
「してません。大体ちとせさんは年上っぽくないし」
「なんだとー!?」
「年相応に色っぽいけど、時々危なっかしいから、僕がリードしないといけないと思う」
「はあ?私が?危なっかしい?」
「ぶっ飛んでるって言ってもいいかも」
「飛ばすのはあんたの精子でしょーが!」
「それがぶっ飛んでるんですよ!だからちとせさんには僕がいないと」
「くっ・・・」

悔しい、という気持ちは全然なくて。
むしろハートをズッキュン撃たれた気分。

「何照れてるんですか」
「べっ、べつにっ!あんた、全然年下っぽくない!」
「そうですか?」
「なんでそこでニコニコ笑顔なわけ?」
「嬉しいからです。じゃ、行きましょう」
「どこに」
「家。そろそろ帰ろう」と藍前は言うと、私に顔を近づけた。

「したいんでしょ?」

そう耳元で囁かれただけで・・・濡れてきた。
うぅ、しまった。
またこいつのペースに乗せられて・・・!

もう!今はゴールデンゾーン中なんだからねっ!
そんなに煽んなくても、十分いけるんだから!

私は、藍前の繋がれた手を引っ張ると、ズンズン歩き出した。




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