私んちの婚約者
迷走、婚約者
オフィスを飛び出して、ビルの廊下をズンズン早足で進んでいく私の迫力に、左右に道を空ける社員達。


私は猛獣か!!


まっすぐにエレベーターの前まで来ると、ちょうどタイミング良く箱が到着する。
中途半端な時間なのか、降りる人も乗る人も居ない。よし。

けれど誰もいないエレベーターに乗り込んだ私の後ろから、もう一人続く影があった。

誰かを確認する前に、大きな手が『閉』ボタンを押し、ポーンと軽快な電子音を鳴らして扉が閉まる。


「梓お嬢様。
どうかなさいましたか?」


優しい声。


振り仰げば神谷さんが、私を心配そうに見ていた。
一部始終、見ていたんだろうか。ちょっと恥ずかしい。

私は奥の壁に寄りかかって、かすかに揺れ始めたエレベーターの表示を目で追う。
どうしてエレベーターって、皆上を見ちゃうのかしらねえ。


ちょっとだけ冷えたアタマで、考えた。


「……何で、天野愁也が私の婚約者なのか、神谷さんは知ってますか」


私は膨れ面のまま、聞いてみる。


神谷さんだって、父に気に入られてる腹心の一人だもん。あの脳ぽよぽよ父の考えそうな事くらい、何か知ってるよね?


ところが神谷さんは首を横に振った。

「私にはわかりかねます。天野は確かに仕事は出来る男ですよ」

仕事はね!

「けど、女関係とか、ぶっちゃけどうなのさ的な」


なんであんなに人気なんだ。
なんであんな綺麗な人を差し置いて、私と婚約なんか出来るんだ。
なんで私の目の前で、あんなに仲良くできるんだ。

っていうか、なんで私はいつまでもこんなことにムカついてるんだ!


悶々とする私を見て、神谷さんは微かな笑みをたたえたまま口を開いた。


「梓さん、
彼のこと好きなんですか?」
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