死が二人を分かつとも
三章

(一)

何度も、呼ばれていたんだと思う。

目を見開けば、真っ先に鬼気迫った弥代くんの顔が見られたのだから。

鬼気から安堵。
しかしてすぐに、不安。

秋空のように変わる彼の顔は、全て私を思ってのことなのだろう。

「見たか?」

思い出したかと同義語であるのは、見てしまったからこそ察せたこと。

答えを返そうとして口が開くも、間を置く。

「お前は何も悪くない。全部、俺が……!」


夢では寄り添えなかった彼。現実では、いつだって手を伸ばせば届く距離にいる。

互いを思いやるように寄り添える位置に。


「私……何をしたの?」

「……」

私の問いは、先ほどの彼の答えともなる。


思案した面持ちの中、彼は私の手を握る。

「お前、もう寝ない方がいい」

これ以上思い出すなと、力強く手のひらから伝わるようだった。

立てるか?とそのまま手を引く彼に習い、立ち上がる。

「今、チロが“最果て”の目印探しでいないから、それまでここで待機。さっきの場所からそれなりに歩いたから、“犬”の心配もないだろう」

目を合わせない彼が、何をしたいのか手に取るように分かった。

「私、弥代くんに何をしたの?」

「……」

「こっち見て……、答えてお願い……!」

「……」

「学校の屋上にいた、傷ついた弥代くんが私のところに来た……!左腕を押さえ、て」


激昂じみた訴えの差し水は、彼の左腕だった。

夢の時とは違う裂傷と火傷。所々破けたシャツの袖から痛々しさを垣間見る。

歴とした現実。目の前にある傷は、無視できるものじゃなかった。

夢とは違い、『手当てをしなきゃ』と考える頭もある。

「答えられない。でないと、こうしてももらえないから」

左腕にハンカチーーチロが綺麗にしてくれたハンカチを巻く。それでも足りないから、赤いスカーフも巻いてあてがった。

「私、弥代くんに酷いことしたの?」

「気にしなくてもいい。ーー思い出さなくていいんだ。何をされても俺は、自殺するほどお前が好きだから」

死よりも重い愛を語る彼の言葉は、血液のように体中によく回る。

愛の色を表現するなら、大概の人は『赤』と答える。情熱の類に当てはまる、燃え上がるほどの熱い思い。

けれども、彼の場合はもっと『濃い』。
赤に赤を重ねたところで同じ。それ以上の赤は存在しない。

だとすれば、彼の愛(色)は一般的な愛情(赤)とは違う何かが混ざっている。

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