檸檬-レモン-
<after story>それぞれの、しあわせ

Michiko Yanai




駅前で貰った一枚のチラシを、見ていた。

胸が、じりじりと切なさで焦げる。


「6月29日…オープン」


カフェ・レモンのオープンは、涙が出るほど嬉しかった。

れもが、ずっと追い続けていた夢。

私はそれがどんなに大変で、険しかったか知っている。


なのに、私は…



「…おめでとう」


そして、ありがとう。

れもは、ちゃんと私を想っていてくれた。

私は、自分の弱さゆえに最低な事をしてしまった。

忙しいれもに、不安になって。職場の上司と浮気をして…


れもを傷付けた。


れもの彼女として、私は何一つしてあげられなかったのに。私はいつも、彼氏としてのれもを求めるばかりだった。


れもと別れて、私は結婚した。


「美智子?どうした?」


「…ううん、何でもない。行こう?」


チラシをさっと、バッグにしまって。笑顔で彼の腕に手をまわす。


私は、しあわせです。

ただただ、伝えたい。


私はれもと過ごした日々も、とても大切だし、しあわせだったよ。


6月29日。


私達の、記念日にしてくれていたんだね。


ありがとう。



しあわせに、なって。



誰よりも、しあわせに…。




.
< 93 / 97 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop