哀しみの瞳
第1章理恵との出会い
毎日が当たり前のように過ぎ、10才の秀は誰からも良い坊ちゃんと言われ両親もその事を何ら疑いもせず、これから先も自分達の描いた通りの将来を歩いて行くのだろうと思い込んでいた。自分自身そう思っていた。それでいいのだと思っていた。あれは、夏休みになってすぐの頃…「次郎おじさんが隣り町に引越ししてきたんだよね? お母さん僕遊びに行って来てもいいかな?」「いいけど、塾へ行って来てからにしなさいよ、夜遅くにならないようにね。ええっ一人で帰って来れるかしら…大丈夫?」君子はいつもそうだ!心配性で僕を一人前としてみてはくれない。どこの母親もこうなんだろうかと僕は不信に思っていた。「大丈夫だよ!だって駅前にある塾からは家に帰るより近いところにおじさんの家はあるのだから帰りは間違なく一人で帰って来れるよ」「お父さんに迎えに行ってもらうからおじさんの家に待ってて!そのほうが母さん安心だから…」「行ってきまぁーす」僕は一度も振り返らず家を出た。後ろの方でさかんに何か叫んでいたようだったけど…何故か走っていた。何から逃げようとしているのでもなく、ただ走って行きたかった。どうしてそんなにおじさんに会いに行きたいのか?ええっおじさんに?そうではないだろう。でも何が自分をそんなに掻き立てているのか、その時の僕には全然分からなかった。塾へ行っても上の空だった。いつもは半目でも書き上げられるプリントがなかなか進まなかった。だんだんと心臓が高鳴るのが自分でも分かるくらいどきどきしてた。プリントを教師に提出した時、あいつがニヤけた顔で「秀君、今日はどうしたんだい?いつもの秀君じゃぁないみたいだったけど、何かあったのかい?先生でよかったら何でも相談に乗るけど…まぁでも君ぐらいだと僕にする相談なんてないのだろうけど」僕は何も答えず黙って礼をして教室を出た。太陽が嫌に眩しく感じた。大人は嫌いだった。何にも分かっていない動物だ。所詮僕もそういう大人になっていくのだろうか?そうなのか、秀?一つも迷うことなくおじさんの家に着いた。「こんにちわ」~「こんにちわぁ-」補修工事がまだ途中のその家は中に入るとおばさんの趣味なのかこざっぱりとしたさり気ない雰囲気のする何故か落ち着いた気持ちにしてくれる心地よい香りがした。
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