哀しみの瞳

理恵の事情

ある日、理恵の家へ、珍しい客がやって来た。秀の母親の君子だ。近くまで来たからと、言ってはいたが…

その日は待子(理恵の母)が偶然家にいて応対することになった。


「お義姉さん、ご無沙汰しております」


「本当にご無沙汰だわよね!待子さん? 浩一君は、元気?主人に聞いたのだけど、浩一君も、秀と同じで、頭良いんだって? やっぱり次郎さんの血を受け継いでいるのねぇ」

「ええっ?まぁ、はいっ、秀ちゃん程ではありませんが…」


暫く沈黙が続く…家をジロジロと見渡しながら。


「他でもないのだけど、秀がやっぱり、相変わらず、お宅にお邪魔してるのかしら?家には、全く寄ってかないのよ!いつも、まっすぐに東京へ帰ってるみたい。どうなのかしら?」


「ええっ?お家に帰ってないんですか?秀ちゃんは…そこまでは知らなかったんですが…そうなんでしたか?」



「待子さん!お宅では、何?秀に理恵ちゃんの家庭教師をしてほしいとでもお願いしているのかしら?高校受験の時、そうだったじゃないの!今だに、お宅の理恵ちゃんったら、秀に勉強教わってるのかしらねぇ?」

「いえっ、そういう訳では…」


「待子さん?今が秀にとって、どういう時かー ご存じでしょう?秀はもうっ、弁護士になる為に夜も寝ないで、頑張っているのよ。そんな時に、理恵ちゃんの為になんて……」迷惑そうな君子の様子は、それはそれは、待子にとっても、後ろめたい気持ちだった。



「私が何を言おうとしてるか、貴女にだって、分かるわよねぇ?待子さん!」

「えええっ、それはもうっ、充分。理恵にも、ちゃんと言ってきかせますので…」
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