アイドルとボディガード
今一番旬なアイドル

都内渋谷区某所。

この街は、今日も多くの通行人がスクランブル交差点を行き交っていた。

繁華街の入り口にある大画面のモニターには、アイドルのPV、音楽チャートランキングなど絶えず何かしらの映像が流れている。

その映像の間に、今よくテレビで流れているCMが映された。



『夏はやっぱりこれだね!』


海辺で白いジュースを片手に、白い肌と大きな瞳が印象的な少女がニコッと微笑む。

その少女は今最も旬のアイドル、小泉千遥だ。

たった数秒のCMにも関わらず、今までモニターに興味も示さなかった通行人がちらほらと上を見上げる。


「あの子、今よく見かけるね」

「あー、あの子の水着やばいんだよなー」


この20代カップル2人もその中に含まれていた。

彼氏としては何気なく発したつもりの水着という言葉だったが、彼女はむっと顔をしかめて彼氏に聞き返した。


「水着?」

「今月号のマンデーでグラビアやっててさ」

「へー」


少し慌てた素振りの彼氏だったが、もう遅かったらしい。
彼女は完全に不機嫌になってしまったようだ。

そんなカップルの横を通り過ぎて、足早に事務所へと歩を進める。
後ろから聞こえてきた彼氏の謝る声に少し同情しながら。



僕は、その渦中の人物、小泉千遥の元へと急いだ。
そう僕こと、藤川将也は、今をときめく清純派アイドル・小泉千遥のマネージャーなのだ。


しかし今、単純に彼女の成功を喜べない事態が起きていた。

とある一件のせいで、僕は毎日、神妙な面持ちで事務所の郵便受けに手を伸ばす。


普通の郵便物に交じって、差出人不明の白い封筒が一通。



夏だというのに、背中に冷や汗が伝った。


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