砂糖菓子戦争

嬉しくない雛霰(ひなあられ)

畳に俺ともう一人が座っていた。もう一人というのは、俺がまだ幼かった頃、まだサンタの存在を信じていた頃によく遊んでもらった、近所のお兄さんである。
しかしながら彼は、大学に入るために引っ越してしまった。
もう何年も会っていない。彼の名前は何だったかも思い出せない。
これは夢だ。現実ではなく夢だ。夢であり妄想だ。

「久しぶりだな。秋雪。いやここは親しみを込めてあっきーと呼んだほうがいいかな」

「素直にやめてくれ」

少しばかり老けたようだった。というか馬鹿になっている気がする。

「失礼だなぁ。ここはキミの妄想なんだから、キミの考えてることは分かるよ」

そういえばそうだった。目の前の彼はというと正座が飽きたようで胡座をかいた。今更ながらに疑問なんだが、何故彼が俺の妄想に出てきているのだろう。
彼との接触は彼が引っ越してから一度もない。それどころか俺の方は彼の名前すらも忘れてしまったというのに。

「まさかとは思ったけど、ひどいなぁ秋雪。お兄さんは悲しいよ。オレの名前も忘れちゃったのか。オレの話したことも」

「…」

それに関しては返す言葉もない。

「だからオレは、キミの妄想に呼ばれたのか。オレが、秋雪に話したことを思い出すために。それなら納得だ」

話したこと?彼は俺に何を話したのか。何も思い出せなかった。彼に関しての記憶が、思い返せなかった。綺麗に繰り抜かれたように。
これは純粋に頭が悪いとかではない。記憶力の問題でも、恐らくないだろう。だったら、何故。

「いやはや人の記憶ってのは不思議だねぇ。お兄さんびっくりだ」

「…そこまでびっくりしてないような気がするんですけど」

「いやいやびっくりしてるさ」

彼は自分の真っ黒い髪に指を通し、ニヤリと笑った。彼に関する記憶はほとんど忘れてしまっている俺だが、彼のこの笑った姿を『懐かしい』と思ってしまった。

「まぁ、ちょっとだけ、昔話をしよう。とはいってもこれはただ単純純粋に、秋雪とオレの思い出を語るだけなのだけれど」
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