ビター・スウィート

ハッピーエンド





抱き締めた彼の腕は、強く、強く。愛しい気持ちになると共に、思った。

どうしてそこまで、私を傷つけないようにと思ってくれたのだろう。



イメージでは、『勝手に泣け』と言いそうな人。だけど実際の彼は『お前が傷付くのは、見たくない』そう言ってくれた。

その心は、分からない。だけどひとつ分かるのは、彼が優しい人だということ。





「あ」

「あっ」



それから一晩が明け、迎えた翌朝。

会社の一階エントランスでエレベーターを待っていると、後ろからやってきた内海さんに思わずお互い声が出た。



「お……オハヨウ、ゴザイ、マス……」

「なんで片言なんだよ」



なんでって……恥ずかしいからに決まっている。

思えば昨日、私は彼に抱き締められたわけで……それを思い出すだけで恥ずかしく、目を合わせられず挨拶すらもたどたどしくなってしまう。



抱き締める腕、力強かったなぁ……。なんて、思い出さない!余計恥ずかしくなるから!

頭の中であれこれと考える私の隣で、一方の内海さんは「ふぁ」と眠そうにあくびをした。


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