どれくらい眠っていたのか。
ドアが開いた音で目が覚めた私は、音の元であるドアを見て、驚きで固まってしまった。

まあ、どっちにしても自由に動けないんだけど。

「カイ・・・」
「俺のことはリ・コスイレと呼べ」

あぁそうだった!
「カイルと呼んでいい」のは、あの時だけだった!

「すみません」と言った私の言葉を聞いているのかいないのか。
上から目線で寝ている私を一瞥したリ・コスイレは、すぐドアのそばに立っている男の人の方を見た。

その人は、さっきドアのそばに立っていた警察っぽい人じゃなかった。
さっきの人はもっと若かったけど、今いる人は「オジサン」だ。
それに地位が上の方の人なのだろう。
オジサンから発せられている威張り具合が、リ・コスイレと何となく似ている。

でもリ・コスイレのほうが、オジサンよりずっと洗練されて、威張っていてもサマになっていると思った。


「手錠を外してやれ」



え?今リ・コスイレは手錠を外せとおっしゃった?
つい安堵しそうになった顔を彼らに見られないよう、私はうつむいた。

今はまだ、気を緩めない方がいい。

「しかし・・・」
「病み上がりの小娘に、この俺が殺られるとでも?」
「・・・しかしこの者は、どこから来たのかも分からぬ不法侵入者でございます。見かけとは裏腹に、力があるのかもしれませんぞ」
「だったらデイモンマに噛まれるというヘマをしないだろう」

あぁ確かに。
リ・コスイレが言ってることについ頷いてしまったけど、よく考えてみたら、この人は私のことを良いようには言ってないって気がしてきた・・・。

「しかしそれは、リ・コスイレに近づくためにわざとしたことかもしれません!」
「命を張ったスパイか。成程。だがこれは毒の抗体を持ってなかったという報告を受けている。仲間と思われる他の侵入者もいない。ゆえにその考えは筋が通らん」とリ・コスイレが言うと、オジサンはグッと顔をしかめてしまった。

「俺が外せと言っている。この俺に同じことを二度以上言わせる気か」

ぎゃあこの人ってば!
なんて尊大なものの言い方をしてるんだろう。

・・・でも、手錠は外してほしい。


それでも躊躇しているオジサンに、リ・コスイレは、「そう簡単に俺は死なん。これがおかしな真似をすればすぐに斬る」と言った。

私は、リ・コスイレの左腰にある剣に、反射的に目が行って・・・しまった。

う。なんか・・・重そうだよね、あれ。
余計なこと考えちゃうから見ちゃダメ!!
と私は心の中で、必死に自分に言い聞かせた。

「案ずるな。これと道連れになる気はない」

と言ったリ・コスイレは、不敵な笑みを浮かべた。
“道連れ”とか“斬る”とか“これ”とか“小娘”とか・・・。
この人は私のことを、ちゃんと人として見ているの?
大いなる疑問だ。


こうして両手の自由は手に入れたものの、これからどうなるのか、別の意味で不安が増した私は、リ・コスイレのことをおずおずと見ることしかできなかった。






リ・コスイレが私の方へ近づいてきた。
そんな大股で歩かなくても・・・。
いや、この人背が高くて、脚も長いから、歩幅も大きいのか・・・な。

この人と一緒なら何とかなるんじゃないかと思ったのは、非常に浅はかだったかもしれない・・・。

ここから、この人から逃げたいけど逃げ出せない。
物理的に無理だし、体もまだ普段どおりに動かせない。

背の高いリ・コスイレが、屈んで私に顔を近づけた。
怯えた顔をしているのは分かっているけど・・・隠せない。

これから私、どうなるの!?
と思った矢先、体がふわりと浮いた。

「え」

リ・コスイレが私を抱き上げていた。
咄嗟に彼にしがみついたけど・・・。

この人熱い。
それに頑丈で、逞しい。

オレンジみたいな香りがする。いい匂い・・・。

私がしがみついたのを確認した、のかどうかは知らないけど、リ・コスイレが私を抱えたまま歩き出した。

すかさずオジサンが「リ・コスイレ!」と叫ぶ。
でも彼は無視してどんどん歩く。
反対にオジサンが、スタスタ歩くリ・コスイレについていった。

なんかこれ、この世界の図式を現してるような気が・・・。


「リ・コスイレ」
「後は俺が引き受ける」
「し、しかし・・・」
「小娘を拾ったのはこの俺だ。これの処遇は俺が決める」

しょ、処遇って何ですかっ!!

オジサンについていったほうが、まだ安全なのかもしれない。
私の身の上とか今後とか・・・とにかくいろいろ!
と思ったけど、気づけば私は、リ・コスイレにギュッとしがみついていた。

そしてオジサンは、歩みを止めていた。

オジサン、私のことを諦めたのかしら・・・。
喜んでいいのか、盛大に悲しむべきなのか。

どっちにしても、だんだん遠ざかるオジサンを頼るという選択肢はなくなった。


「どこ行くんですか」
「王宮だ」

はい?王宮?

「リ・コスイレ!」と叫ぶドクターに、リ・コスイレは「もう動かして良いのだろう?」と歩きながら答えた。

「あと数日は安静にさせてください」
「分かった。治療費の請求書は王宮へ回せ。俺が払っておく」

頭を下げたまま、「かしこまりました、リ・コスイレ」と言うドクターの姿が、逞しい肩越しにポツンと見えた。

というわけで、私には、ドクターを頼るという選択肢もなくなった。

あっさり?
それとも元々なかった・・・こっちだろうな、たぶん・・・うん。


王宮+治療費の請求書は王宮へ×「俺が払う」。
=この人って・・・もしかして、ものすごーく偉い人、なのかな。







私の想像を裏づけるように、病院へ出た私たちを待っていたのは、リムジンみたいな豪華な車だった。

リ・コスイレは、その尊大な言葉遣いとは裏腹に、私を優しく車に乗せてくれた。
運転手さんとか助手席に乗っている人、そして私たちの向かいに座っている人たちがいることを意識して、私は車内で一言もしゃべらなかった。
その間、できれば外の景色を見たかったけど、黒塗りの窓からだと、ロクに見えない。
だから向かいの男の人と目を合わせずにすむよううつむいて、ひたすら考え事をしていた。

・・・この世界には車があるんだ。
でもみんなこんな・・・豪華な車に乗ってないよね。

やっぱりリ・コスイレってお金持ちってことなのかな。


隣の彼をチラッと見ると、タブレットを見ていた。
こっちにもタブレットってあるんだ。ふぅん。

どうやらリ・コスイレは、お仕事中らしい。
タブレットを見ている彫りの深い顔立ちは真剣だ。

・・・カッコいい。

ふと思い浮かんだ言葉が「カッコいい」って!!
・・・でもリ・コスイレは、ものすごくイケメンだ。


そのとき、リ・コスイレがタブレットを見たまま、唇をニヤッと上向けた。

げ!この人、私がじーっと見てること気づいてる!!
・・・ていうか、ここまで近距離だったら分かるよね。

私は「すみません」と心の中で謝ると、そそくさとうつむいた。






リ・コスイレは、私を抱きかかえて部屋まで連れて行ってくれた。
その部屋は、私が想像していたよりはるかに豪華で広々としていた。
少なくとも、私が一人暮らしをしていたアパートより、絶対広い!

これからどんな処遇を受けるのか、かなり不安で怖かったせいか、リ・コスイレに優しくベッドに寝かされた私は、ホッとしたのか、涙ぐんでしまった。

少なくとも、今この場で殺されるってことはないよね?
それにこの部屋は、拷問するのにふさわしくないって感じだし。

あ、そうだ!お礼!!

「あの・・・ありがとうございました。いろいろと・・・」
「おまえはどこから来た」

私がお礼を言ってる途中で、リ・コスイレはベッドの近くにある椅子にドッカリ座って、私に質問してきた。

う。拷問はないけど、尋問はあるみたい・・・。

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