砂の国のオアシス

12 (カイル視点)

父上の威厳を損ねない程度にサッサと挨拶を終わらせた後、俺は本題に入ることにした。
ナギサには聞かれたくないことだったので、さり気なくジェイドに目配せをすると、ジェイドはすぐに立ち上がってあれを連れ出してくれた。
やはりジェイドは気が利く。
できればテオと結婚後も俺の秘書として働いてほしいが、テオのことだ。
「僕がいないところでこれ以上いちゃつくな!」と駄々をこねるに違いない。

テオに惚れきっているジェイドは、奴の言い分を聞くか。
もう俺との「提案」どおりにふるまう必要はないしな。
というより、テオと結婚する以上、ふるまわせるわけにはいかん。

ナギサに誤解されるようなことは、俺もしたくない。

俺はウイスキーをグッと煽ると、「婚姻に関する法律を変えようと思っている」と皆に言った。
エミリアが少し出てきた腹を撫でながら、「どう変えるの?」と俺に聞く。

「今は結婚しても、男女双方とも姓が変わることはない。それを結婚する際、双方が名乗る姓を変えても良いことにしたい」
「ワシもその案は提案したことがあるが、貴族院に却下されてしもうたわい。じゃが、婚姻の法律に身分差のことは記してないからのう。それでオフィーリアと結婚することは承認されたが」
「父上がそんなの関係ないと言い続けてくれたおかげで、今では身分とか家名にこだわってる人は、かなり少数派になってると思う」
「テオの言うとおりだ。今ここで法律を変えても、却下はされないだろう」

ほう。
テオはこういう話題に興味はないから内部事情には疎いと思っていたが、意外と分かっているではないか・・・成程。
多少ジェイドが関わっていることでもあるからか。

「逆に、家名や身分にこだわる結婚をする必要がなくなる分、本当に好きな人同士が自由に結婚できるようになるんじゃないかしら」
「それでナギサという娘も、堂々とマロークの姓を名乗らせることができる。良い案ではないか」
「あれが選べば、の話ですが」
「カイル、まだナギサに言ってないの?」
「言ってないよねえ?“グラ・ドゥ”の意味を教えるなって王宮中におふれを出してるくらいだし」
「えーっ!ホントにーっ?」と言いながら、ギャハギャハ笑うエミリアに、俺は「笑うな!」と言いながら一瞥する。

ついでにテオのこともジロリと睨みつけておく。

・・・やはりこれは空気が読めん男だ。
もっとジェイドといちゃついて、これを妬かせておけば良かった。

「ピアスもつけた上に、王家の者が着る服まで着させておいて、それはないんじゃないの?」
「今夜言う。あれにまた逃げられるのは、もううんざりだ」
「は?ナギサ、また逃げ出したのか?」

・・・しまった。
皆には知られたくないことだったが・・・。

俺は「・・・昨日な」と言うと、ナギサの逃亡劇を渋々話した。





「空港のサイレン鳴ったんだ!アハハハ!!」
「そういえば昨夜、風に乗って何やら音がしたが。あれがそうじゃったか」
「も・・う、ナギサ・・・めちゃくちゃ面白いーっ!!」と言いながら、出ている腹を抱えて爆笑するエミリアに、「おまえも関係していたんだぞ!」と俺は言った。

「一声かけてくれたら良かったのに・・・好きなんだね、カイルのこと」
「当然だ」

だからこそ、俺はナギサを護りたい。
俺の女として。

そして行く行くは俺の・・・妻として。

「とにかくじゃ。ワシが長年放り出しておいたことを、おまえに後始末させてすまんのう」
「いえ」
「でもさ、ナギサがマロークの姓を名乗るだけで、周囲は納得するかなあ」
「分からん。そのときはナギサを養女にすることも考えている」
「家名と身分にこだわる人たちは、良い家柄の養女と国王(カイル)が結婚するとなれば、反対も口出しもできないってことか。成程。それでカイルは私と話がしたかったわけね」
「そういうことだ」
「ワシの二人の妻たちの家柄であれば、貴族共も反対はできまい。じゃがナディーンは、面倒くさがって断ると思うぞ」
「あぁそうだろうね。僕の母上は、家柄や身分にはこだわってないけど、ナギサを養女にすることで、周囲からあれこれ言われることが面倒くさいって思うタイプだから。僕はナギサがベネディクト家の養女になっても全然構わないけど」
「それも想定済だ。だからリュベロン家の現当主であるエミリアに頼みたい。エミリア、万が一のときは、ナギサを養女にできるか」
「良いけど。条件が一つ」
「何だ」


・・・てっきり新生カーディフ建国のために、ジグラスの力になってくれとでも頼んでくるかと思ったから、エミリアの条件には拍子抜けした。

『今夜ナギサとジェイドと3人で、温泉に入りたい!』

何だ、そんなことかとあっさり承知したものの、以来、今までナギサと二人きりになる機会を完全に奪われてしまった。くそっ。

折角の数少ない休日なのに、何故父上と我が弟と一緒に温泉に入らなければならなかったんだ!

この俺が!!

少々苛立ちが残ってはいたが、ナギサはもう眠っているはず。
俺はドア前にいた護衛に「下がれ」と視線で命じると、部屋のドアをそっと開けた。
気配を殺して紫龍剣を掴む。

・・・敵の気配はない。
そして紫龍剣も敵を察知していない。
ということは、この部屋はクリーンだ。

俺は剣から手を放すと、やっと部屋へ入った。



ベッドサイドに紫龍剣を静かに置くと、たちまち剣は小さくなった。
どうやら紫龍剣も安堵しているらしい。

では、俺も心置きなくナギサと交わるか。



俺は逸る心を抑えながら、着ているものを全て脱いだ。
服をたたむ余裕など、前回同様全くない。
そんな暇があればナギサに触れたい。

欲望に疼く体を火照せながら、俺はベッドの中へ・・ナギサの隣へと潜り込んだが、これは俺に背を向けたまま、グーグー寝ている。

そのまま寝かせてやった方が良いのか。
と思ったのはほんの一瞬だけで、それ以上に性欲が俺を支配した。

ナギサの二の腕に手を置いて、あらわになっている首筋に吸い付きながら、手はそのまま胸へと移動させる。

「・・ん・・・か、カイル!?」
「やっと起きたか」
「あ・・・の・・・んんっ」

俺はナギサを仰向けにさせると、これの唇を貪るように吸った。
キスすることで、これが徐々に目覚めていくのが分かる。

「ここ・・私の部屋じゃないの?」
「ここは俺がいつも別荘で使っている部屋だ」
「あ・・ごめんなさい。この部屋案内されたから・・・」
「おまえが俺の部屋で俺と一緒に寝るのは当然のことだ。なぜ謝る」
「・・・ふぇ?」

これのリアクションを見るのは、暗がりでも面白い。
俺はフッと笑うと、ナギサの寝着を脱がせにかかった。

「あっ、あのちょっと待って!」
「二晩もしてない。待てん」
「う・・えっと、私っ!」とナギサは言いながら、俺の手を掴んだ。

俺は手を止めると、必死の面持ちをしているこれを上から見た。

「何だ」
「私、あなたを満足させることができない・・」
「案ずるな」
「い、痛いのいや・・・っ!」

ナギサの声だけでなく、体も震えていた。
やはりこれは怯えている。

俺は今にも泣きそうな顔をしているナギサに、顔を近づけた。

「体をリラックスさせてその身を俺に委ねろ。そうすれば前よりも痛くはない」
「ほ、ホントに?」
「本当だ」
「じゃあ・・・ぅんんっ」

一応ナギサの「同意」を得たことで、肩に引っかかっていたこれの寝着をサッサと脱がせた。
どちらにしても、これに拒否権などないも同然だが。

これが滑らかな肌をしていることが、暗がりでもよく分かる。
だが、見るだけでは足りん。

俺はナギサの全身に、所有の刻印を唇でつけ始めた。







「気持ち・・良いか・・・ナギサ・・・」
「う・・・カイルッ!」

これ以上激しく突き動くと、必死に俺にしがみつく小柄なこれの子宮を壊してしまうかもしれんと躊躇したのは一瞬だけ。
壊しても良いから、これの胎内まで俺で満たしたいという、狂おしいまでの独占欲がそれ以上に勝った。

「ナギサ・・・ナギサ・・・」
「あ・・・あぁん!ああああっ!」
「ナギ、サッ・・・くっ・・・!」

ナギサが俺のをギュウっと締め付けた。
と同時に、胎内の奥でビクビク痙攣し始める。

あぁ凄いな。俺も・・・。




俺は、自分の性欲を発散させるためだけに、後宮の女を相手にしてきた。
どの女も国王(リ)の一時的な飾り。
まともなつき合いなどしたこともない。
俺が心から信頼できるに値する女に出会ったことがないからだ。

だから今まで抱いた女の名も知らないし、一度抱いた女は二度と抱く気にもならなかった。

それなのに、俺はナギサを二度抱いた。
しかも事の最中に、初めて相手の名を呼んだ。
そして俺は初めて、相手の中で精を放った。

上にいる俺にしがみついて泣く小柄なナギサを潰さないよう、お互い向かい合わせにすると、これが流す涙を舌で拭った。

ナギサが泣く顔は、あまり好きではない。
いや、正確に言えば、これに悲しい涙を流させたくないと思う。
女に対してそういう風に思ったことは初めてだ。くそっ。

・・・さっきから俺は初めて思うことばかりではないか。
だが俺の心は穏やかで、晴れ晴れとしていた。

「ナギサ」
「・・・ん」
「俺にも日本語を教えてくれ」
「う・・ん、うっ・・・」

体が交わることで、心まで交わったと感じたことは初めてだ。
これを初めて抱いたときも、そう思った。

ナギサのことは、二度と言わず、何度でも抱きたい。
飽くなき俺の欲望は、留まる事を知らんようだが、ひとまずそれを抑え込む。

泣きながら俺の背を撫でるナギサが、とても愛おしい。
俺の女に対してそういう風に思うことも初めて・・・また俺は「初めて」な気持ちを体感してばかりいる。

つまり、これを手放すことなど出来んということか。

今ナギサが流しているのが嬉し涙であることに、俺は安堵する。
願わくば、ナギサがさっき何度も言っていた「スキ」という言葉が、「グラ・ドゥ」と同様の意味であってほしい。

俺が少し近づくと、ナギサは俺に脚を絡ませた。
どこまでもこれは無意識に煽ってくる。

そのまま俺はナギサの髪を一撫でし、唇にキスをした。

「ナギサ・・・」
「ん・・・はい」

「俺のバンリオナになれ」

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