砂の国のオアシス

14 (最終話)

私は王宮の病棟に、1週間ほど入院した。

その時、ジグラスさんが私のお見舞いを兼ねて、非公式に謝罪に訪れた。
2メートル近い身長に、真っ赤な髪。厚みのあるがたいは非常によろしい。
やっぱり頑丈な壁みたい!
放たれてる存在感もハンパない。

しかも、筋肉モリモリな二の腕には、いろんな文字の刺青が掘られているせいか(後で聞いたら、背中にもいっぱいあるらしい)、より一層目立つというか・・・。

そんな壁大男さんに、いきなり頭を下げられた上に「申し訳ない!」と謝られて、ビックリしてしまった。

「俺の民の不手際で、ナギーを死なせてしまうところだった。俺を好きにしてくれ!殺しても構わんぞ!」
「いや!そんなこと言ってたら、命がいくつあっても足りないでしょう?それに、あなたを殺したら、エミリアさんとお子さんに顔向けできません!誰だって失敗や間違いをするんだよ。だから同じ失敗を繰り返さないこと。そしてこれからもカーディフを統治することにその力を捧げてください。それが私のお願い、ていうか、ジグラスさんにしてほしいと思うことで・・・」
「・・・紫龍よ。おまえはめちゃくちゃいい女を見つけたな」
「当然だ。だから誰彼構わずヘンなあだ名をつけて呼ぶな!」
「あ。やっぱり今、“ナギー”って言ったよね?」
「ああ。その方が呼び易かろう」
「そ、かなぁ・・ははっ」

うーん。
ジグラスさんって、カイル同様、超イケメンでもあるのに。
いろんな意味で存在感濃くて、しゃべると残念なタイプっていうか・・・。

「ところでナギー」
「“ナギサ”でお願いします」と言う私を無視して、ジグラスさんはフォンを取り出すと、写真を見せてくれた。

「・・・あ!生まれたの?!」
「リカルド・シファーだ。エミーに似てめちゃくちゃ可愛くてのう。俺にそっくりだったらこの先どうなるかと案じていたからな。マジでホッとしたぞ」
「その点だけは賛成だ。良かったな。おめでとう」
「おめでとうございます!」

てか、どっちに似ても美形に変わりはないと思うんですけど・・・?

「本当はエミーも来たがっていたが、生まれたのが一昨日のことでな。さすがにリッキーを飛行機に乗せることもできんと言われて」
「ここであなたを殺してしまったら、ホント顔向けできないです!ジグラスさんっ!」
「はいっ!」
「みんなに余計な心配かけちゃダメだよ!特にエミリアさんとリカルドくんには!!」
「ナギーの仰せのままに」

とジグラスさんは言うと、大きな体をカクッと折って、深々とお辞儀をした。



「いやぁ、本当に良かった。あまりに出血が多かったので、正直なところ、最初の数日は危なかったのですよ」
「もしかして、リ・コスイレ(国王様)が輸血してくれたんですか?」
「はい。これ以上は危険だというくらいに血液を提供してくださいまして。“俺は死んでも構わん。だがこれの命は絶対助けろ。さもないとおまえたちを全員殺す!”と喚きたてまして。貴女様を抱きかかえていらっしゃったせいか、御召物は血痕がたくさんついておりましたし。それはもう、ものすごい剣幕で」
「あぁ・・・いろいろすみませんでした」

その場面やそのセリフの声まで、私、鮮明にイメージできちゃうから!

「幸い、以前の件がありまして以来、貴女様の血液型のストックを増やしておくよう、リ・コスイレから言われておりましたので。それがあるにも関わらず、“こっちのほうが新鮮だ!”と言われましてもちょっとですね、ええ・・・」
「すみません、いろいろ大変な思いをさせてしまって」

カイルてってばもう・・・!
迷惑の波及効果はここまで及んでいたのか。うぅ・・・。

「カイル様は昔から頑固で気難しい一面がありましたが、貴女様がいらしてからは、何と言いますか、とても優しい一面がより表出るようになったような気がいたします。カイル様が砂の国の人々に潤いを与える存在ならば、貴女様はカイル様と砂の国の人々に安らぎを与える、オアシスのような存在。まさに貴女様こそ、イシュタール王国のバンリオナ(王妃)に相応しいと、私は信じております」

そうドクターに言われた私は、ニッコリ微笑むと「ゴライブ(ありがとう)」と言った。




思ったとおり、私たちの結婚に対して、反対意見も出たらしい。
でもそこは、俺様国王が持つ威厳と斜め上目線でねじ伏せた・・じゃなくって、納得させたそうだ。

私が高貴なリュベロン家の養女になったことで、「イシュタール人じゃない」と言えず、身分のことでもあれこれ反論することができず。

「まだ私は大学生じゃないか」、「女子大生がバンリオナになるなんて前例がない」という意見に対しては、「それがどうした。あれが大学へ行きたいと言うのなら、行かせれば良い。前例がなければ新たに作れば良い」とカイルはアッサリ答えて。

「その間に御世継ができたらどうするのですか!」と食い下がってきたら、「もちろん生ませる。大学は4年で卒業せねばならんとは決まってない。あれのペースで好きにさせる」。

以上!みたいな・・・。

そしてもちろん、リュベロン家の人たちはみんな、結婚に大賛成してくれたので、もう反論の余地もなく。
バンリオナ教育は、結婚後でもできることだ、とは言わずもがな。

これを、カイルの新秘書のオンディーヌさんが、カイルの口調と俺様目線でそっくりそのまま教えてくれたもんだから、笑いをこらえるのに必死だった。

撃たれたのが脇腹だったからか、腹筋使うのは少々つらいんです・・・。



というわけで、議会の承認を無事得ることができた私は、カイルと結婚した。


結婚といえば。
私たちが結婚することが公に認められてすぐ、トールセンとエイチさんが結婚した!!

あぁそっかぁ。
エイチさんの「いい人」って、トールセンだったんだ。

二人が結婚したから、というわけじゃないけど、私とカイル、二人の強い希望で、エイチさんには引き続き、私の護衛をしてもらうことになった。
バンリオナになれば、私にも必然的に護衛がつくことになる。
だったら心から信頼できる人に頼みたい。
エイチさんなら適任だ。

ついでに、この時「トールセン」は名字で、名前は「ユリウス」だと初めて知った。
ホント、どうでもいいことだけど・・・うん。

そして、ウィンにもいい人ができたみたいだ。
オンディーヌさんと、お似合いな雰囲気が漂っている。
一応カイルにも聞いてみたら「そのうち分かる」と言われて・・・。

ま、「機密事項だ」と言われなかっただけ、良しとしますか。

とにかく、オンディーヌさんと一緒にいるウィンは、よく笑っている。
それが心から楽しそうに見えて、泣きそうになるくらい私も嬉しい。
オンディーヌさんのユーモアと温もりと愛情で、ウィンの傷ついた心が癒されればいいな、とひそかに願っている。













10年後。

「母様!蓮華がいっぱい!今から母様にいいもの作ってあげる」
「あら楽しみ。でも野に咲いてるお花を摘み過ぎちゃダメよ」
「分かってる!“いいよー”って言ってくれた子だけ摘むから」
「はいはい」と私は言いながら、蓮華を摘むトリクシアを愛しげに見ていた。

トリクシアはお花が大好きで、今では私の花壇だった場所のお世話を、嬉々としてしてくれる。
そうそう、あの花壇に植えた種は、紫色の花がたくさん咲いた。

やっぱり夢に見たとおり、次期国王なるのはザッカリーかな。
トリクシアは「お花屋さんになりたい!」って、ここ数年ずーっと言ってるし。
まとめ役というより、おっとりした性格してるし。
それにザッカリーは子どもたちの中で、外見と、特に性格が、カイルに一番似てると思うし。

あれから私は、時々だけど、予知夢のようなものを見るようになった。
今いる丘で、4人の子どもたちと、そして夫であるカイルと一緒にいる風景は、数か月前に見た。
それまで私は、蓮華が咲く丘があるなんて知らなかったんだけど、カイルに夢のことを話したら、「おまえの体調が落ち着いたら、みんなでそこに行こう」とカイルに言われて。

まさに夢と同じ景色でビックリした。

他にも、ザッカリーとリアヌのお嫁さんになる彼女も見た。
彼女たちの名前まで知っている。

「ってことは、やっぱりこの子は女の子かなぁ」と私はつぶやくと、少し出てきたおなかをゆっくり撫でた。

「俺は男でも女でも構わんが、もしこの子が男ならば、やはり次もがんばるべきだと思う」
「ほらやっぱり!あなた女の子ほしがってるじゃない!」
「俺はおまえがほしい。それだけだ」

10年経ってもカイルは相変わらずイケメンでガタイはよろしく、俺様ぶりは健在だ。
これは一生変わらないだろう。
変わらなくていい。
ただ私を愛してくれていれば、それでいい。

そして私は俺様国王のあなたを愛してる。

私の視線を感じたのか、カイルが私を見て微笑んだ。
そして顔を近づけてそっとキスをする。

「グラ・ドゥ」と囁いて。


砂の国のオアシス 完

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