嫌われ者に恋をしました

 その他にも、雪菜には困っていることがあった。

 それは、初めて二人で行った監査の日から、監査の度に隼人から食事に誘われていること。今では監査の帰りに食事に行くのが恒例行事になってしまった。

 隼人は仕事の時はいつも静かで冷徹で、少し怖い感じなのに、食事に行く時はすごく優しくて、いつも微笑みかけてくるから、雪菜は毎回ドキドキしてしまう。

 でも、何度か食事に行くうちに少しずつ慣れてきて、前ほど緊張しなくなってきた。会話はだいたい会社の話だけれど、隼人は人の悪口を言うこともなく、気分が悪くなるような内容でもない。

 雪菜にとって、隼人と一緒にいるのはすごく楽しい、というわけではなく、少し安らぐような感じだった。

 でも、隼人に安らぎを感じる自分に、雪菜は後ろめたさを感じていた。こんなに関わってしまっていいんだろうか。私が関わったらきっと迷惑になるのに。

 そんなことを思うなら、きっぱり断ればいいものを、あの笑顔が見たくて断れないでいる。

 食事に行くだけ。ただ、それだけのこと。

 きっと、こういう感じの上司と部下もあるのかもしれない。今までそんなことはなかったけれど、今回はそういう上司なのかもしれない。きっと、そう。

 今度ミノリちゃんに会うから、その時話してみよう。自分の話をするのは苦手だけど、今は少し話せそうな気がする。
< 68 / 409 >

この作品をシェア

pagetop