グッバイ・メロディー


「洸介、ちょっとおいで」


きょうもたくさん働いてきた指がちょいちょいとこうちゃんを呼ぶ。

17歳までとうとう反抗期を迎えなかった息子は、それに素直に従った。


「今年はサンタさん方式にしようと思ってたんだけど、せっかく顔が見られたんだから直接渡しちゃおうかな!」


じゃーん、という元気のいい声といっしょに出てきたそれを目にして、言葉を失ったのはこうちゃんだけでなく、わたしも、トシくんも同じ。

直おじちゃんが残してくれたギタ美ちゃんによく似た形をしているそのギターは、こうちゃんが最近ずっと欲しがっていたアコースティックギターで間違いなかった。


「これでよかった?」


母は得意げのなかに少しの緊張が混ざったような表情で息子を見た。

息子のほうは、嬉しさのなかにも少しの訝しさを浮かべて、恐る恐るうなずいた。


「欲しかったけど、なんで」

「よかったー! 旦那も息子もギタリストのくせにぜーんぜん知識なんてなくて、それとなくきっちゃんに聞いたり、洸介が寝てるあいだに通販サイトの『欲しいものリスト』覗き見たり、スパイみたいな毎日送ってて死ぬかと思ったよ。間違ってたらシャレになんないじゃんねえ?」


そんなの聞かれたことなんてあったかな、と思い返して、はっとした。


脇坂さんのお店で試奏しているこうちゃんの動画を、冬くらいに一度だけ清枝ちゃんに見せたことがあった気がする。

お金貯まったら次はアコギ買うんだって、とまで暴露してしまったような、いないような。

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