グッバイ・メロディー
⋆°。♬


もともと思案派ではなく行動派なこうちゃんは、ひと晩したらすぐに半田家へ足を運んだ。

わたしは今度はついていかなかった。


男の子どうしのことに女子は介入できない。

それに、またなにかの拍子にウッカリ泣いちゃって、水を差してしまうのも嫌だったの。


そのかわりこうちゃんちでオムライスを用意して待っていることにした。


本当はカッコつけてふわとろ玉子にしようと思ったけど、意外とむずかしくて結局固焼き玉子に落ち着いた。

これはかなりの練習が必要そうだ。


陽が沈んでからやっと帰ってきたこうちゃんは、いつも通りの顔をしていてほっとしたよ。


ちゃんと、仲直りできたんだね。

アキくんとのことだから、ほとんどなにも心配はしていなかったけど。


「うさぎ、かわいい」


鮮やかな黄色の上にケチャップで描かれた動物を見て、こうちゃんがぽわぽわと頭の周りにお花を飛ばす。

喜んでくれてよかった。


でも、


「……これはくまさんです……」


わたしをまじまじと見つめるふたつの目が、バチンと雷に打たれたような、ショックな色に変わる。

ごめん、という絶対に言わなくてもいい3文字が力なく届いてくる。


こんなことならおとなしくでっかいハートでも描いておけばよかった。

新婚さんみたいでちょっと気恥ずかしくなってやめちゃったのが、たぶん間違いだった。


「精進するね……」


ふわとろ玉子も、ケチャップイラストも。

簡単そうに見えて、オムライスはいろいろと奥が深いのだということを知る。

< 160 / 484 >

この作品をシェア

pagetop