喉の乾きを覚えて、目を覚ました。

静かに眠る蒼の腕から抜け出し、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。

冷たさが染みていく。

そういえば、台所に鞄をおきっぱなしにしていた。

ヌメ革のトートバッグを開け、スマートフォンを取り出す。時間を見るつもりだったが、着信とメールに愕然とした。

ストーカー?

1分置きに志摩さんからの着信が残っている。それはまさしく蒼が電源を切った時刻から30分は続いていた。

恐る恐る最新のメールだけを開くと、短い文字が並んでいた。

−−−−イナでデモラン。5時に迎えに行く。

たぶんこの単文に至るまでには、かなりの葛藤があっただろう。怖すぎて、留守電も他のメールも開ける気にならない。

暗闇の中で立ち尽くしていると、いつの間にか起きたのか、後ろから抱き締められた。

「どこにいったかと思った」

蒼の声は少し弱々しい。

「そばにいるよ?」

「うん」

それでもぎゅっと腕に力が込められる。

私の髪に顔を埋め、花梨の香りだと呟く。

時折、蒼が見せるギャップに最初は戸惑っていた。

だが、あの世界から離れた時だから出せる本音なのかも知れない。

私と居るときぐらい、戦いの緊張から解放させてあげたかった。

「大丈夫だよ」

蒼のそばにいるから。

今はレースの重圧も忘れて、そのままの蒼でいていいんだよ。

優しくその言葉を繰り返す。

安心したのか、蒼の手から力が抜けた。

「志摩さんから伝言」

手にしていたスマートフォンの画面を見せる。

「マジか。もう一回したら、明日走れないかな」

冗談を言えるほどに蒼はもう復活していた。

ほっとしながらも、今夜は大人しく寝るしかないことが少し寂しい。

相談したいことがあったけれど、これ以上レースを思い出させることはしたくなかった。

今日はこのまま、静かに眠ろう。

二人くっついたまま、狭いベッドで横になる。






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