不機嫌主任の溺愛宣言

(2)


(2)



「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


車が戸田駅を出発してから15分。最初の「おはよう」「宜しくお願いします」の挨拶以来、車内は沈黙を保ち続けていた。

忠臣はただ真っ直ぐ前を見てハンドルを握っている。一華は助手席からずっと窓の外を眺めている。言葉も視線も一切交わされること無く、車は黙々と福見屋デパートへと向かっていった。


「ありがとうございました」

地下駐車場に着くと、一華は待ち侘びてたかのようにシートベルトを外して車から降りようとした。まるで逃げ出したいかのようなその態度に、忠臣は口元をわずかに引きつらせる。

車から降りドアを閉める間際、気まずそうに視線を逸らせながら一華は忠臣に告げた。

「あの、やっぱりご迷惑になるでしょうから、明日からはいいです」

「なっ…!?」

途端に忠臣の顔色が一変する。伏目がちな切れ長の瞳を見開いて一華を映すその姿からは『何故!?』という動揺があからさまに見て取れた。
< 34 / 148 >

この作品をシェア

pagetop