不機嫌主任の溺愛宣言

(2)


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あれから、加賀は逃げるときに多数の目撃者がいた事から、後日暴行容疑で警察に捕まった。

忠臣が怪我をし救急車で運ばれた事と加賀が捕まった事で、今回の一件は会社に報告しない訳には行かず。同時に忠臣と一華の関係も、ごく一部の人間の知るところとなった。

会社は別に社内恋愛を禁止している訳ではない。ましてや忠臣はもう所帯を持つには充分な年齢なのだから、会社とてとやかく口を出すものでもないが。

けれど、忠臣は少し不安にも思うのであった。人の口に戸は立てられない。自分と一華との関係を耳にした者が、加賀のように良からぬ事を考えなければいいのだが、と。


そんな上司の不安もつゆしらず。

「主任がまさか姫崎さんとお付き合いしてるなんて夢にも思いませんでしたよ。もー、それならそうと早く言ってくれたらいいのに~」

副主任の右近は、まるで友達の恋をからかう学生のようなノリで忠臣を囃し立てた。

こういったからかいは本来、忠臣がたいそう嫌う分野だ。しかし、一華を助けに行くとき事務所を飛び出しそのまま帰らなかった事、それに翌日も病院での検査があって急遽午後からの出勤になってしまった事など、右近にも随分と迷惑を掛けてしまった。それを考えると、忠臣も無碍に部下を叱咤するわけにもいかないのであった。

「その件では右近にも色々と迷惑をかけたな。すまなかった。仕事に滞りが出ないようフォローしてくれて感謝している」

けれど、忠臣がさりげなく話題をずらそうとしても。

「そんな事はいいんですよ。それより僕は主任と姫崎さんの馴れ初めなんか聞きたいなあ。やっぱあれですか?あの焼肉屋で会った時以来、仲良くなったんですか?」

右近は今度は女子学生のように、上司の恋バナに興味津々に喰らい付いてくる。

さすがに忠臣は、困ったと言わんばかりにひとつ溜息を吐くと

「朝礼に行くぞ、右近。頭を仕事に切り替えろ」

そう言って背を向け、さっさと事務室から出て行くのであった。部下のキラキラとした好奇心の視線を背中に浴びながら。
 
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