ナツイロ~俺様部長様とわたしの秘密~(2014年夏短編)
ナツイロ~俺様部長様とわたしの秘密~


「玉井っ! 何度言ったらわかるんだ。アタック(音の出だしのこと)が周りとずれてるんだよ。アンブシュア(口の形のこと)が崩れすぎ。明日が本番だって知ってんのか?」


「はいっ」




大事な大事な、夏のコンクール前日。


今日も始まった、我が弱小吹奏楽部の俺様部長様のねちっこいお説教。


俺様部長様──庵藤深月(あんどうみづき)先輩。


彼は、部長兼、クラリネットパートのパートリーダー兼、コンサートマスター兼、学生指揮者。


我が吹奏楽部のリーダー職を一手に引き受ける、デキる男。


顧問は名ばかりの1曲通すのもままならなかった弱小吹奏楽部を半年でここまで育てた男。


ついでに、容姿端麗、頭脳明晰、あつい人望…ときたモンだ。


つまり、庵藤深月という男は我が部…いや、我が校のマスターピースなのだ。


まあ、当の本人は女性らしい名前を非常に気にしているようなんだけど。


唯一の欠点、らしい。


そんな俺様部長様は毎日必ず1回はわたし──玉井陽香(たまいはるか)のことを集中攻撃するんだ。


毎度のことだけど、恥ずかしさと悔しさで目の前が涙でにじむ。


別にわたしだけがへたくそなわけじゃない。俺様部長様の独断と偏見でわたしだけが集中攻撃される。


わたしは相棒のクラリネットをキュッと握った。


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