異次元バスでGO!
異次元バスでGO!
「墓石の欠片が、必要なんだよ」
            瞼を腫らしながら走る佑香(ゆうか)の耳を、陽気な声がかすめた。           
「お嬢ちゃん、切符がいるんだよ」                  もう一度、同じ声がした。
            だけど、佑香は止まらない。墓石にも切符にも心あたりがないし、小学生の自分に声をかけてくるのなんて、道を聞きたい人か不審者くらいだ。            道が聞きたいなら、別の人に聞け。
           歪んだ視界をなぐように乱暴に目をこすり、涙をふいた。
           生ぬるい、夏の風が吹く。どろどろと地平線に溶けていく夕日へ向かって、ひたすら街を駆けていく。まっすぐ続く道の先に、鉄条網で囲まれた空地があり、その中央には金色の鉄塔がそびえている。黄昏の光を浴びて燃えるように輝くそれは、どこかの金持ちが気まぐれにつくったオブジェにすぎない。                  佑香の目的地はそこで、もう覚悟を決めている。
 覚悟を決めているとはいっても、あの噂が本当で運が良かったらの話だけど。                   『うちら、ずっと親友だよ』
            親友だった頃のマリエちゃんの明るい笑顔が、ふいに浮かんだ。泣きたい気持ちがせりあがってきて、むせる。それで深呼吸しようとしたとき、唐突に襟首が後ろへ引っ張られた。                 ぐへぇッと変な咳が出た。
           「切符がいるって言ってるだろ」
            しゃがれた声が降ってきた。                    誰だし。                  佑香が喉を押さえながら振り返ると、サーカス団員じみた男がニッコリ笑った。
 彼は、佑香の襟からステッキを抜き、『八』の字に似たちょび髭を撫でる。ダブルのスーツにシルクハット。紅白で飾りたてられた卵を思わせる姿に、佑香はあとずさる。          文句を言うつもりが、一気にしぼんだ。
            気もち悪いおじさん……。
 慌てて逃げる。でも、卵型おじさんに手をつかまれてしまった。ぎゃあっと思ううちに、色あせた薄い石を渡された。
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