現代のシンデレラになる方法

夢の終わり



先生には止められていたけど朝迎えに来てもらうようになってから、私は毎日お弁当を作るようになった。

当直の日でも、軽めに夜食と朝食を作って病院で渡すようになった。

自分でもやり過ぎかと思ったが、先生が毎回お弁当の感想を教えてくれて喜んでくれるから。
私もつい調子に乗ってしまう。


仕事終わりに近所の大きなスーパーに寄ることと、いつも携帯で色々なレシピを調べることが習慣になっていた。

今までは、ただ味気ない同じような日々を繰り返していただけだったのに。

今では私の生活の一部に先生がいる。
私の頭の中の大部分を先生が占めている。

先生のお弁当を作ることこそが、今の私の拠り所だった。







『あ、外科の川崎です。入院手続きお願いしまーす』

「は、はいっ。今向かいます」

看護師さんから電話が入った。
それは入院手続きがまだ済んでいない人の件だった。
私は部屋番号と名前を聞いて病室へ向かう。

いざ病室へ着くと、そこには患者の男性がベッドに座っていた。
その傍らには奥さんと思わしき女性がいる。
2人で何やら談笑しているよう。

思わず、あっけにとられてしまった私。
何かご用ですか?と声をかけられ、はっとして入院手続きを切り出した。


「あ、すいません、入院手続きの方を……」


おかしい。

本来、入院手続きとは本人か家族がするもの。
本人が手続きできない場合は、家族が受付に来てもらって手続きしてもらうようになっていた。

なのに、なんで病室まで私を呼んだのだろう……?

新しい人で分からなかったのかな。


しかし、それからも外科で同じことが続いた。
ちょこちょこ、その電話が入ってきて、その度に外科の患者さんの元まで行かなくてはならない。

ちょっとこれが一苦労。

だけど、わざわざ忙しい看護師さんに言うことじゃない。
私が我慢すればいいだけの話だ。


だけど、やっぱり外科の看護師さん達の様子はおかしかった。
患者さんの情報を聞きたくて、声をかけるも相手にしてもらえなくなったのだ。

「あ、あの、すいません、あの患者さんて……」 

「すいません、今忙しいんですよねー」

そう言いながらパソコンをカチカチする看護師さん。
周りの看護師さんがクスクス笑う。

思わず息が詰まる。
……この嫌な感じ知ってる。

私は根っからのいじめられっ子体質。
それが私に向けられているものだとすぐに分かった。

こういうのばかり敏感で本当に嫌だ……。

「す、すいません」

そう言ってナースステーションから足早に出る。

最初は何かしたのかな、と色々考えたがやっぱり答えは一つしかない。

きっと、先生にお弁当を作ったり、朝一緒に来てることがバレ始めているのだろう……。




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