現代のシンデレラになる方法



病院に来た初日、早速、外科の医局に通されそこで久しぶりに兄貴に会った。


「久しぶり、兄さん」

「久しぶりじゃないだろ、どういうことだ」

びっくりしたように言う兄貴。

俺が来ることを今朝方、外科部長から知らされたらしい。

そう、俺がここを研修先に選んだことは兄貴にも誰にも言っていなかったから。

当然っちゃ当然なんだけど。


「うちの病院に来るなら教えろよ」

「ごめん、ごめん。それよりも兄さん、俺の教育担当なんだよね?お手柔らかにお願いします」

そう深々とお辞儀をすると、上から至極嫌そうな声で聞き返された。

「はぁ?」

心底、不満といったような表情。

ははは、そんな顔されると嬉しくなってしまう。


「そうそう、言うの忘れてた。弟君のことよろしく頼んだよ」

会話を聞いていたのか、横から外科部長の呑気な声が割り込んできた。


「え、なんで俺なんですか」

慌てて抗議する兄貴。

嫌だろうな、研修医をつけられるなんて。

体の良い厄介払いだからな。

「いいじゃないか、兄弟仲良くやりなさい」

にこにこ笑う部長に、俺もにっこり兄貴に微笑む。

「ということでよろしく、兄さん」




その日から仕事中は兄貴と行動を共にすることが多くなった。

どこにいっても、熱い視線を感じる。


「なんで外科ばっかり、イケメンが来るの」

「あの2人兄弟らしいよ」

「なんて素敵な兄弟」

「ちょっとクールなお兄さんに、可愛い弟。バランス良すぎ」


そんな声が耳に届く。



外科のナースステーションでパソコンの前に座り、指示の入れ方などの大事な説明をする兄貴の傍ら。

またもや、びしびし熱い視線を感じた。

俺が目を合わせると、きゃっと甲高い声が上がる。

それに、照れを含んだ作った笑顔で応え会釈すると。

兄貴が、げんなりしたように言った。


「……おい、何やってるんだ」

よそ見をする俺の頭を、怒った兄貴の手が掴む。

そして強引にパソコンに顔を向けさせられた。


「何って愛想ふりまいてんだよ」

「はぁ?」

「大事なことだろ、ナースの機嫌損ねたらやりずらくなるしさ」


そう言うと、兄貴は苦虫を潰したような顔をする。

はは、懐かしい、よくこんな顔されたっけな。


「分かったけど、俺の話はちゃんと聞け」

「はーい」

「お前まさか、俺が兄弟だからって優しく教えてくれると思ってうちの病院にきたのか」

「え、当たり前じゃん?」

「そうか、じゃ厳しくいくぞ。この際だからお前の甘ったれた根性叩き直してやる」

「えーっ」


はたから見たら仲睦まじい兄弟の図。

だけど、

にぶい兄貴は、俺が心の奥底では、毒々しい感情を抱いてることなど絶対に気付いていないんだろう。



俺はあんたが嫌いだ。

ずっと前から、あんたの不幸を誰よりも願っている。



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