願望クエスト
「あゆ…大丈夫?」

そこにいたのは鹿山博美(かやま ひろみ)だった。

彼女は学年トップクラスの成績の秀才だが、

控えめでバカな話にもつきあってくれるので

御崎鮎や原愛那とも仲が良かった。

「あゆ、驚かせてごめんね…」

「ううん、大丈夫。ちょっと考えてたんだ。」

「愛那のことだよね…」

御崎鮎は目線を下げて小さくうなずいた。

「博美、やっぱおかしいよね。愛那が自殺なんて。あんなに彼氏ができたって喜んでたのにさ…そんでその彼氏は大丈夫なわけ…?」

「ショックで学校休んでるわ。」

「…だよね。」

御崎鮎は椅子にすわったままくるりと前を向いて座り直し、ぼんやりと机の端を見つめた。

「愛那、せっかく願望クエストで願いがかなったばっかりだったのにね…」

鹿山博美はため息をつくように言った。

「がんぼう…?なにそれ。」

御崎鮎は落としていた目線を再び鹿山博美に戻した。

「あゆ、知らないの?人気のアプリらしいんだけど。願い事が叶うって。」

鹿山博美は珍しいものを見るように目をぱちぱちさせて言った。

「なに?願いが叶うアプリ?よくわかんないんだけど…それは…お地蔵さま的な?」

御崎鮎が眉をハの字にしてそう聞くと、鹿山博美はシンプルな黒のケースに入ったスマホをポケットから取り出した。

「あゆに教えてあげるよ。願望クエストっていうアプリのこと。」
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