星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】

2.忘れられない君 -託実-



中等部三年の夏。

俺自身の不注意から膝を壊して
陸上部を退部し、親友・宮向井隆雪に乗せられるように
ベースと出逢った俺は、あの頃アイツと一緒に始めた
大切なバンド・Ansyalのベーシストとして
俺、亀城託実(きじょう たくみ)は今も頑張っている。


中学の頃のAnsyalは、バンドとは名ばかりで
固定メンバーは俺と隆雪の二人だけ。


隆雪の知り合いで、SHADEってバンドのギターリスト、怜(りょう)さんのバックアップで
LIVEに呼んでもらっては、その時に怜さんが招集してくれたメンバーで演奏していた時代を経て
Ansyalはゆっくりと、メンバーを増やしていった。


中三の最初の演奏で、一緒に奏でて以来、一緒にバンドを組むことがなかった
同じ神前悧羅出身のうちのボーカルとドラム。

当時、別のバンドRapunzel(ラプンツェル)として音楽活動していた、
十夜(とおや)こと瑠璃垣伊吹(るりがき いぶき)と、憲(のり)こと廣瀬紀天(ひろせ あきたか)。

他のバンド仲間から、十夜と憲のRapunzelメンバーとの不協和音を知ってから
隆雪と何度も何度もスタジオに足を運んで、口説き落とした。

憲はすぐにメンバー加入を決めてくれたものの、十夜の了承はすぐには得られず
とりあえずヘルプメンバーとして、サポートを受け入れてくれた。

大学二年の頃には、ツインギターとしてAnsyal最年少で子役出身の祈(いのり)が、
俺の従兄弟であり、結成した時からお世話になってる事務所の責任者でもある宝珠姉の紹介で決定した。

祈が正式加入してAnsyalのサウンドに厚みが増すと、十夜も正式加入を表明し
今のAnsyalが生まれた。

そんな五人が、本来のAnsyalの姿だった。

メンバーそれぞれがバラバラのインディーズ時代を経験して
メジャーデビューをしたのが四年前の十二月。

憲が正式加入して二年、
十夜と祈が正式加入した大学二年の時だった。


俺がベースと出逢って五年。
理佳が旅立って、四年の月日が流れた。


一時は理佳の影響で、親父みたいな医者を目指したいと思ったこともあった高校時代。
だけどそんな思いは、音楽の深みにはまっていく中で次第に消えてしまって、
隆雪と結成したAnsyalをもっと有名にしたいって強く思う様になった。


十二月にデピュ-も決まって、これからだって確信を得たその秋。

デビューに向けての地下作業でスタジオに詰めている隆雪の体に異変が起きた。

吐き気や頭痛を訴えて、俺が強引に連れていった親父たちの働く大学病院で、
隆雪は脳腫瘍が見つかった。

一時はデビュー前解散も余儀なくされたAnsyalだったけど、
隆雪の強い思いで、俺以外のメンバーには病気のことを隠して、
こっそりと治療を続けながら学生生活と音楽活動を続けた。
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