星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】

18.別れの季節~擦れ違う時間~  -託実-


雪貴のピアノコンクールの夕方。

理佳の眠る墓の前で出くわしたのを最後に、
百花ちゃんは俺の前から姿を消した。


彼女の職場でもある、
画廊に行けば逢えると思っていたのに
その場所にも彼女はいなかった。



彼女の祖父でもある画廊の会長に、
すがるような気持ちで、アポを取り付けてお会いするものの
会長は静かに俺に告げた。







今は百花をそっとしてやってください。







深々とお辞儀しながら告げられた言葉は、
それ以上の介入を拒絶したように思えた。


彼女の職場で逢えなくなった俺は、
ファンクラブ名簿に綴られている住所を覗き見る。

そのまま携帯画面にメモをして、
車を走らせて向かった先、
彼女の部屋には灯りがついていない。


慌てて、一階のエントランスに設置されてある
ポストを覗き込む。



勝手に人のポストを覗き見るなんて、
怪しいこと、この上ない。

わかってはいるのに、抑えられない衝動。



彼女を失ってしまうのが怖すぎて……。



彼女が消えて初めて感じて取れた、
百花と理佳との違い。



きっかけは……
百花に理佳の面影を見たからかもしれない。



だけど……理佳と百花は全くの別の存在。


理佳はもうこの世にはいない。
この手に触れることのない永遠の存在。



でも……百花ちゃんは、
俺の隣を共に歩いてくれる存在。


俺に乾いた温もりではなく、
包み込む優しい温もりを与えてくれる存在。


だからこんなにも、
彼女を求めて餓え(かつえ)続ける。



ポストの中にも手がかりはない。


そんな不安のまま、
俺はAnsyalの新曲に向けての仕事に
集中するように働く。


何かをしていないと、百花のことばかりを考えて
動けなくなりそうだったから。


スタジオで、順番に交代しながら録音していく
籠り続ける時間。


十夜と憲が帰国して、学校生活の合間に
スタジオに足を運んでくれる雪貴と祈。


納得行くまでレコーディングを続けて、
アルバムが完成したが、
世の中がクリスマスムードに包まれ始めた頃。

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