星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】

5. secretlive……擦れ違いの時間  -百花-



職場である画廊に買い物に来た託実。

そんな託実から貰ったシークレットライブのチケットを
握りしめながら、私は親友の唯香の到着を会場前で待ってた。


この後、Ansyalがシークレットで出ると言う情報を
機材車で確認して情報が流れていったのか、
霞ヶ丘周辺には、Ansyalファンらしき集団が少しずつ集まりはじめる。


そんな光景を見ると、託実にチケットを貰って
教えて貰えて本当に良かったって心から思えた。


携帯の時計を睨みながら唯香を待ち続けていると、
そこには少年らしき男の子が唯香の傍に寄り添ってた。



ったく、唯香ったら何やってるんだろう。


親友の名前を大声で呼ぼうかとも思ったけど、
その少年と会話する唯香の雰囲気が、
いつもと少し違っているように見えて、
喉元まで出かかった声を飲み込んだ。



だけど次の途端、
その少年は唯香の唇にキスをした……。



何?
突然の展開に私は動くことが出来なくて、
ただ視界に映る、唯香と少年をじっと見つめる。


少年が唯香の耳元で何かを話して、
何処かへと移動すると、唯香は硬直が溶けたように
私の方へと駆け出した。


「ごめん。百花」


平謝りの唯香に、ちょっぴり仁王立ちの私。

だけどすぐに、
好奇心から何があったか問いただす。


「いいって。

 誰?あの子?名前は?
 唯香にも彼氏が出来たんじゃん。
 あの子に送ってもらったの?」

「違うって。
 あの子は教え子なのよ。

 私の……。

 学校には秘密にしてたんだけど
 ばれちゃった。

 ねぇ、教師がゴスロリ着て
 LIVEハウスで暴れてたら
 やっぱりマズイかな?」



母校の音楽教師を務める唯香。

別に学校の先生が、どのバンドが好きでも
気にしなかったらいいと思うんだけど、
やっぱり世間様の教師のイメージ像っていうのもあるからか
唯香の口からは、そんな心配が零れだす。


そんな唯香を慰めるように笑いかけて、
私たち二人は、LIVEハウスへと続く階段を降りていく。


すでにメインメンバーの演奏が佳境を迎えだす時間。

託実から貰ったチケットを入口に立つスタッフに見せると、
私たちは会場内へと入った。

知らない音楽が響く、Ansyalの普段の箱よりも小さな空間。

いつもはドセンの私たちも、
今はメインファンにドセンポジションを譲るために
後ろの壁際で、ワンドリンク交換してじっとステージを見つめる。


対バンの時、常に比較してみてしまう私の基準。
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