グレープフルーツを食べなさい
「待って上村っ……ごめん、ごめんなさい……」

 最後の私の声が上村に届いたかどうかはわからない。

 大きな音を立てて玄関のドアが閉まり、私はまたこの一人の部屋に取り残された。

 たぶんもう二度と、上村がこの部屋に来ることはないんだろう。

 頑丈なドアに私と上村が永遠に隔てられたような気がして、胸が締め付けられる。

 その時、玄関ドアの前にうずくまる私の足元に何かが触れた。

 キッチンの床にそのままにしていたグレープフルーツが、まるで私を追いかけるようにここまで転がってきていた。

 ……それは、まるで呪縛のようで。
 
 ビニル袋から溢れて、床を埋め尽くすように転がるたくさんの黄色い果実から私は目を離すことができなかった。

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