大学からの帰り道、それはいつもの帰宅コースから少し外れた、たまに使う寄り道コース。

人の多い駅前を通り過ぎて、立ち並ぶ店も行き交う人もまばらになってきた頃に現れる、煉瓦造りの小さなお店。

木でできた扉に手をかけると、カランカランと小気味いい音が響く。


「おっ、いらっしゃい」


いつもと変わらない笑顔に迎えられて店内に足を踏み入れると、ふわっと香ばしい香りに包まれた。

ここは、雨の日に偶然見つけたパン屋さん。

お店の名前は、エトワール。


「しかし、あんたも暇だね」


意地悪く微笑みながら、いつものように皮肉を口にするが、言葉に全く悪意を感じさせないこの人は、接客担当の前田 菜穂(まえだ なほ)。


「菜穂さんの方こそ、とってもお暇そうに見えますよ。でも、お元気そうで何よりです!」


にっこりと微笑んで思ったままを言葉にして放つと、菜穂のこめかみがピクピクっと動いた。