世間知らずな彼女とヤキモチ焼きの元上司のお話
ラブホテル

 彼が私の部屋に来てから数日後のデート。
 彼は助手席に座った私に、ニッコリと笑って聞いてきた。

「で? さくらの昔の男って、どんなヤツ?」

「え? 何の話?」

「この前、食事の時間になっちゃって聞きそびれた話だけど、まさか忘れてないよね?」

 そこまで言われて、ようやく思い出す。
 と言うか、まだそんな事を覚えていたんだと、聞かれた事よりもそっちに驚いた。

「……ああ! ダメだ!」

 なんて答えようかと思っていると、彼がいきなり大きな声を出した。

「な、何が?」

「さくらを俺のものだって、実感しまくって安心したくなった!」

「え? 修一くん?」

「水族館、中止!」

「ええ!? イルカショーはぁ?」

「それは、また今度」

 彼はいたずらっ子のようににんまり笑うと、次の交差点でおもむろに車をUターンさせた。

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